「会社に迷惑をかけるな」介護を“個人のわがまま”と切り捨てる人事部長
数日後、ユキさんは人事部長との面談に呼ばれました。
「会社は組織で動いているんだよ。あなた一人だけ特例を認めるわけにはいかない。個人のわがままは許されないんだよね」
人事部長は、会社の組織体制を理由に、ユキさんの訴えを切り捨てました。
「わがままではありません。母の通院には車が必要で、夫の休みに合わせないと介護が成り立たないんです。会社の介護支援制度の対象になるはずですが……」
必死に食い下がるユキさんに対し、人事部長は、鼻で笑うようにこう言いました。
「お母さん、『要介護』じゃなくて『要支援』なんでしょう? 水曜日に公共交通機関で行きなさいよ」
母親が寝たきりではないことを理由に、バスやタクシーの利用を勧める人事部長。さらに「親の面倒を見るのは個人の問題。会社に迷惑をかけるのは筋違いだ」とまで言い放ったのです。
足の悪い母親を連れて、バス停まで歩き、乗り降りさせることの困難さを、この人はまったく理解していない。ユキさんは諦めからか、黙り込んでしまいました。
「外部の第三者には会わない」夫の直談判も一蹴
その夜、帰宅したユキさんから事の顛末を聞いた夫のイチロウさんは、激怒しました。
「『公共交通機関で行け』なんて、介護の現実を知らない人間に違いない。介護休業法を無視した会社の対応はおかしい」と憤ったイチロウさんは、自ら会社に掛け合うことを決意しました。
翌日、イチロウさんはユキさんの会社に電話をかけ、人事部長との面談を申し出ました。配偶者として、現在の介護の状況がどれほど切実か、そして会社の対応がどれほど妻を追い詰めているかを直接説明し、納得のいく話し合いを求めたのです。
しかし、人事部長からの回答は耳を疑うものでした。
「配偶者であっても、外部の第三者とお会いしてご説明する義務はありません」
シフト変更はあくまで会社と従業員間の問題であるとし、これ以上の介入をしないよう冷徹に電話を切られ、イチロウさんも唖然とするしかありませんでした。
「もう、辞めるしかないのかな……」
月収30万円という収入源を失うことは、これからの介護費用や生活費を考えると致命的です。しかし、会社から「厄介者」扱いされ、正当な制度の利用すら「わがまま」と切り捨てられたユキさんの心は、折れかけていました。
