「安心だったけど、私には窮屈だった」3ヵ月で分かったこと
「何か嫌なことがあったの?」
孝之さんが尋ねても、節子さんは最初、うまく説明できませんでした。職員の対応に不満があるわけではありません。ほかの入居者とトラブルになったわけでもありませんでした。
「みんな親切よ。だから悪く言いたくないの」
それでも話を聞いていくと、節子さんが戸惑っていたのは、それまでの暮らしとの違いでした。
食事を頼んでいる日は決まった時間に食堂へ行きます。安否確認の声かけもあります。それらは節子さん自身が安心材料として期待していたサービスでした。
しかし、実際に毎日暮らしてみると、
「今日はお昼を遅く食べようとか、何もせず一日家にいようとか、前は全部自分で決めていたでしょう。ここに来てから、時間を気にすることが増えたの」
と感じるようになったといいます。
もちろん、サ高住だから生活時間が一律に管理されるわけではありません。サ高住で必須なのは状況把握と生活相談であり、食事や介護、家事など、それ以外のサービス内容は住宅によって異なります。
節子さんの場合も、食事サービスをやめたり回数を減らしたりする選択肢はありました。しかし、それだけではありませんでした。
以前のマンションでは、朝になると近所のスーパーまで歩き、顔なじみの店員と話すことがありました。同じ建物には20年以上付き合いのある友人もいました。
「一人で暮らすのが不安だったのに、いざ離れてみたら、一人でも知っている人がいる場所だったんだって分かったのよ」
孝之さんはそこで、母が求めていた「安心」と、自分が考えていた「安心」が少し違っていたことに気づきました。
孝之さんは、職員がいて何かあったときに対応してもらえることを安心だと考えていました。一方の節子さんにとっては、そうした安心に加えて、長年慣れ親しんだ場所で自分のペースで暮らせることも大切だったのです。
節子さんはサ高住を退去し、元のマンションへ戻ることを決めました。契約内容を確認して解約手続きを進め、売却せずに残していた自宅で再び一人暮らしを始めました。
地域包括支援センターにも相談し、緊急時の連絡手段を整え、民間の見守りサービスも利用することにしました。浴室には手すりを追加し、滑りにくい環境にも整えました。
サ高住は、すべての入居者に状況把握と生活相談サービスが提供される住まいです。高齢者の一人暮らしを支える選択肢の一つですが、提供されるサービスや生活の自由度、費用、立地などは住宅によって異なります。
高齢期の住み替えでは、「見守ってもらえるから安心」「食事を用意してもらえるから楽」といった利点だけでなく、それまでどのような生活を送り、何を大切にしてきたのかも考える必要があります。
新しい住まいが合うかどうかは、設備やサービスの充実度だけで決まるものではありません。可能であれば元の住まいをすぐに処分せず、本人が実際の生活をイメージしながら検討することも、住み替え後のミスマッチを避ける方法の一つでしょう。
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