市営住宅への引っ越し後、娘から届いた長いメッセージ
転居して1週間ほど経ったころ、久美子さんは祐美さんにメッセージを送りました。
「今度の日曜、棚を買いに行きたいんだけど車出せる?」
返信はその日の夜に届きました。いつもの短い返事ではなく長い文章でした。
そこには、これまで言えなかった祐美さんの不満が書かれていました。
「私はずっと、お父さんとお母さんの用事を優先してきたつもりです。でも、手伝ってもらうことが当たり前になっているように感じます」
「私にも家庭があります。これ以上、何かあるたびに呼ばれる生活はできません」
正夫さんは「そこまで言うことか」と怒りました。久美子さんも最初は、「親子なのだから助け合うのは普通ではないか」と思ったといいます。
しかし、祐美さんから次に届いた一文を見て、言葉を失いました。
「しばらく距離を置きたいです。もう会うことはありません」
その後、電話をしても祐美さんは出ませんでした。久美子さんはそこで初めて、今回の引っ越しだけが原因ではなかったことを理解しました。
振り返れば、娘が忙しそうなときにも「少しだけだから」と頼み、断られると不機嫌になったことがあります。孫に会いたいときも、祐美さん一家の予定より自分たちの都合を優先していました。
「一つひとつは大したお願いじゃないと思っていたんです。でも娘にとっては、それが何年も積み重なっていたんですよね」
内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、2023年時点で65歳以上の人がいる世帯は全世帯の49.5%を占め、そのうち夫婦のみの世帯と単独世帯がそれぞれ約3割です。高齢期を子どもと同居せずに暮らす世帯は、現在では珍しいものではありません。
夫婦はその後、棚を自分たちで買いに行きました。大型の商品は配送を頼み、照明の取り付けなど難しい作業は有料サービスを利用しました。
市役所の手続きも、分からないことは窓口で尋ねています。
「お金はかかるけど、本当はこうすればよかったんですよね。娘なら無料でやってくれると思っていたところがあったと思います」
祐美さんとの連絡は、今も途絶えています。
久美子さん夫婦は市営住宅へ移ったことで住居費を抑え、以前より家計には余裕ができました。一方で、家族との関係まで立て直せたわけではありません。
高齢期には、生活上の手続きや移動など、誰かの助けが必要になる場面が増えることがあります。そのとき、子どもがいるからといって、いつでも支援してもらえるわけではありません。民間サービスや行政の窓口も含めて生活を組み立てておくことは、親自身の暮らしを維持するためにも必要になります。
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