帰省そのものではない…「母が終わらせたかったこと」
健太さんは箸を止めました。
「何が最後なの?」
「こうやって何日も泊まって、私が全部用意するのは今日で最後」
健太さんは驚きました。
「急にどうしたんだよ。何かした?」
「何か一つされたからじゃないよ。私がもうできないの」
節子さんは、布団を出すことも、毎食作ることも、息子のために買い物へ行くことも負担になっていると話しました。
「あなたは46歳でしょう。帰ってきてくれるのはうれしいけど、お客さんみたいに全部してあげる年じゃないでしょう」
健太さんは、「だったら言ってくれれば手伝ったのに」と答えました。節子さんはその言葉にも引っかかりました。
「言われないとやらないでしょう。あなたも、私がやるのが当たり前だと思っていたんじゃない?」
健太さん自身も、母が高齢になっていることは分かっていました。ただ、実家へ戻ると、自分が若かったころと同じように振る舞っていたことには気づいていなかったといいます。
話し合った結果、今後も健太さんが帰省すること自体は変えません。ただし、2泊以上する場合は近くのホテルを利用することにしました。
実家で食事をする日は、一緒に買い物へ行き、外食代も健太さんが負担します。帰り際の交通費も、節子さんは渡さないことにしました。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、2025年の推計では、65歳以上人口に占める一人暮らしの割合は男性18.3%、女性25.4%。高齢者が一人で暮らす家庭では、子どもの帰省が家族との大切な交流になる一方、受け入れる側の体力や生活状況も年齢とともに変化します。
数ヵ月後、健太さんは再び実家を訪ねました。
今度は日帰りです。昼食には、健太さんが買ってきた弁当を二人で食べました。
「これなら楽だね」
節子さんがそう言うと、健太さんは苦笑したといいます。
「今まで母さんが全部やってたんだから、そりゃ大変だったよな」
節子さんが「最後にしたい」と考えたのは、息子の帰省そのものではありません。
食事や寝具を用意し、費用まで負担する――息子が帰ってくるたびに何もかも世話をすることでした。帰省を続けるのであれば、泊まる日数や食事、費用などについて、その都度無理のない形へ変えていくことも必要です。
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