移住から1年半、娘が目にした両親の現在
移住から1年半ほど経ったころ、美香さんは数日間、両親の家に泊まりました。そこで目にしたのは、以前とはかなり違う生活でした。
朝食後、夫婦は近所を30分ほど散歩します。義夫さんは週に一度、市民農園へ。良子さんは地域の料理教室に参加するようになりました。
戸建てにいたころは、休日になると義夫さんが庭木や家の修繕を気にしていました。現在は共用部分を管理会社が管理するため、外壁や屋根の状態を自分たちで確認する必要はありません。
良子さんも、2階へ洗濯物を運ぶ生活から解放されました。
「お母さんたち、前より出かけてるね」
美香さんが言うと、良子さんは、
「家のことをやらなくていい時間が増えたからね」
と答えました。
生活費も大きく変わりました。
地方へ移ったからすべて安くなったわけではありません。マンションの管理費と修繕積立金は月約3万円かかりますし、食品価格も都会と大きく変わらないものがあります。
一方、車を1台手放したことで、駐車場代や保険、車検などの支出は減りました。外食の回数も以前より少なくなっています。
実際の夫婦の生活は、決して観光の延長ではありません。朝に散歩し、スーパーで必要なものを買い、家で夕食を作る。ときどき電車で隣町へ出かけ、年に数回旅行をする。
ただ、その日常を夫婦は気に入っていました。
「都会にいたときは便利だったけど、家を維持することにも結構時間を使っていたんだよね。今は、二人で暮らすにはこれくらいで十分なんだ」
もちろん、海辺の町への移住にも注意点はあります。
夫婦は物件を探す際、自治体のハザードマップを確認し、津波の浸水想定区域を避けました。医療機関へのアクセスだけでなく、将来どちらかが一人になった場合でも暮らせるかも話し合っています。
現在確保している住み替え資金2,300万円も、自由に使い切るつもりはありません。将来の医療や介護、さらに別の住まいへ移る可能性に備え、一部は残しておく考えです。
「もう都会には戻れないよ」
義夫さんがそう言うのは、海が見えるからだけではありません。家の管理や車に頼る機会が減り、夫婦二人の生活に必要なものが以前よりはっきりしたからです。
高齢期の地方移住では、憧れだけで場所を選ぶと、買い物や通院、交通手段が後から負担になることもあります。一方、将来の生活まで見据えて住む場所を選べば、これまでの家に合わせて暮らすのではなく、今の自分たちに合った生活へ変えるきっかけにもなります。
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