「この家、二人には広すぎるよね」70歳で決めた住み替え
「また庭の草、伸びてきたね」
妻の恵子さん(仮名・70歳)がそう話すと、夫の正志さん(仮名・71歳)は「もう自分でやるのはきついな」と答えました。
夫婦は30年以上、4LDKの戸建てで暮らしてきました。
2人の子どもはすでに独立し、現在は夫婦二人暮らし。年金は合わせて月約25万円、預貯金は約3,000万円ありました。
子ども部屋はほとんど使っていません。それでも掃除は必要です。
庭木の剪定を業者に頼めば数万円。外壁や屋根も定期的に手を入れなければなりません。さらに、洗濯物を持って階段を上り下りすることも、恵子さんには負担になっていました。
「70代のうちはいいけれど、80歳になってから家を売って引っ越すのは大変なんじゃない?」
恵子さんのひと言をきっかけに、夫婦は住み替えを考え始めました。選んだのは、駅から徒歩10分ほどの2LDKの中古マンションです。
スーパーやドラッグストアが近く、病院にもバスで行けます。室内はワンフロアで、戸建てのように庭や外壁を自分たちで管理する必要もありません。
戸建ては約3,400万円で売却。マンションの購入費と諸費用、リフォーム代などを合わせて約2,900万円かかったため、手元には約500万円が残りました。
「家も小さくなるし、余計なものも処分して、これからは身軽に暮らそう」
夫婦はそう話していました。引っ越しに合わせ、家具や荷物も大幅に減らしました。
大きな食器棚、婚礼家具、子どもたちが使っていた机。何年も開けていなかった段ボールも処分しました。
最初の半年ほどは、住み替えて正解だったと感じていたといいます。
掃除する部屋は減り、階段もありません。庭の草が伸びることもなく、駅まで歩けるため車に乗る機会も減りました。
総務省『令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計』によると、高齢者のいる夫婦のみの世帯の87.6%は持ち家に暮らしています。高齢期まで持ち家で暮らす夫婦は多く、長く住んだ住宅をどうするかは老後の生活設計にも関わる問題です。
ところが、引っ越しから1年ほど経つと、恵子さんからこんな言葉が出るようになりました。
「楽にはなったけど、思っていたのとはちょっと違ったね」
