共働きでも、住宅を持ち続けることが重荷に
美希さん夫婦の決断は、決して特別なものではありません。2020年に約7,800万円で購入したマンションには、まだ住宅ローンが約6,000万円残っていました。共働きで収入はあったものの、住宅費だけで月25万円前後。そこへ夫の単身赴任による二重生活費と、膨らみ続ける教育費が重なりました。
加えて、変動金利型の住宅ローンは6年目に入り、毎月の返済額も約18万4,000円から約19万9,000円に上がっています。返済額そのものの増加以上に、「これから先も上がるかもしれない」という不安が、夫婦に住まいを見直す決断を促したのです。
近年は住宅ローンを変動金利で組む世帯が多く、金利が実際に動きはじめたことで、初めて家計の余裕のなさを意識した家庭は少なくありません。原因は一つの油断ではなく、住宅・教育・生活変化といった複数の負担が同時に重なる構造そのものにあるケースが多いです。
そして、親世代から見落とされがちなのが、「実家には空いている部屋がある」「親を頼ればなんとかなる」という発想。悪意はなくとも、そこには年金で暮らす親の時間や体力、お金が、当然のように組み込まれてしまいます。高齢世帯の家計は年金収入に合わせて切り詰められていることが多く、余力は限られています。「まさか自分たちが、ここまで頼られるとは思わなかった」――そう感じる親は、正夫さんや和子さんだけではないでしょう。
親子だからこそ「期間・費用・役割」を曖昧にしない
子どもや孫が困っていれば、親は何歳になっても手を差し伸べたくなるものです。とりわけ、長く家庭を支える側に回ってきた人にとって、「娘の役に立つこと」は、自分の存在意義を再確認できる数少ない場面でもあります。そのため、身体が疲れていても「大丈夫」といってしまいがちです。
また、年齢を重ねるほど家族との気まずさを避けたい気持ちが強くなり、違和感があっても指摘を先延ばしにしやすいもの。正夫さんの質問に時間がかかったのも、無理はありません。
しかし、年金生活では収入を大きく増やすことは簡単ではなく、一度減った老後資金を取り戻すのも困難です。同居を受け入れるなら、少なくとも次の点は事前に決めておく必要があります。
生活費を毎月いくら入れるのか。いつまで住むのか。食事や洗濯、掃除、送迎を誰が担うのか。予定より長引いた場合はどうするのか――家族だからこそ、曖昧にしてはいけない話です。
親側も「空いている部屋があるから大丈夫」で終わらせず、修繕費や医療・介護費の見込みを差し引いた支援の限度を確認しておきたいところです。
美希さん夫婦の判断自体が間違っていたわけではありません。問題は、家計改善策のなかに両親の家とお金、時間を当然のように組み込んでしまったことです。親子であっても、それぞれに守るべき暮らしがあります。
あなたの家に、子どもが「しばらく住ませて」といってきたとき、「困ったときはお互いさま」という気持ちと同じくらい、「いつまで」「いくら」「誰が負担するのか」を、先に話し合えるでしょうか。
三原 由紀
合同会社エミタメ
代表
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