(※写真はイメージです/PIXTA)

毎年子どもの夏休みに実家へ帰省する――それは、日本の夏の風物詩ともいえる光景です。帰省ラッシュの時期には高速道路が大渋滞となることも少なくありません。しかし、「実家はいつでも迎えてくれる」「顔を見せれば親は喜んでくれる」――そんな子世帯の当たり前が、ある日突然覆されることもあるようです。本記事では、波多FP事務所の波多勇気氏が、佐藤大輔さん(仮名)の事例から、お金と帰省の対話について考えます。※紹介する事例は、相談者より許可を得て、プライバシー保護の観点から相談者の個人情報および相談内容を一部変更して記事化しています。

母が帰省を断った理由

相談の冒頭、大輔さんはこう切り出しました。

 

「正直ショックなんです。孫の顔を見せるのが一番の親孝行だと思ってきたのに、来なくていいなんて……」

 

筆者はまず、感情の話をいったん脇に置き、数字から見ていきましょうと提案しました。

 

「大輔さん、お母さまの毎月の収入はいくらか、ご存じですか」

 

「え……いや、考えたこともないです。年金で普通に暮らせているものだと」

 

「では、あくまで仮の数字で計算してみましょう。会社勤めだったお父さまの遺族厚生年金と、お母さまご自身の年金を合わせて月13万円前後というのは、地方で暮らす同世代の女性によくある水準です。ここに、ご一家4人が1週間滞在したら、なにが起きると思いますか」

 

筆者は電卓を大輔さんのほうへ向けながら、続けました。

 

「食べ盛りのお子さん2人を含む4人分の食材を1週間分となると、いまの物価ではざっと2万円を超えます。お母さまの世代なら、帰ってくる家族に不自由をさせまいと、普段は買わないような食材も用意してくれていませんか。エアコンも普段より長く回しますから光熱費も上がる。そしてお孫さんへのお小遣いです」

 

ソニー損保の2026年の調査では、お盆に孫や親戚の子どもに渡す、いわゆるお盆玉を用意する人は38.6%と増加傾向にあり、1人あたりの平均額は約1万円です。孫2人なら2万円。合計すると、1回の帰省でお母さまの財布から5万円近くが出ていく計算になることを伝えました。

 

「5万円……月13万円のうち、ですか」

 

「そうです。月収の3分の1以上が、たった1週間で消える。現役世帯の感覚でいえば、月給40万円の家庭が1週間で約15万円使うようなものです。しかも72歳のお身体で、布団の準備、買い出し、連日の炊事までこなされる。お金と体力、両方の負担が限界に近づいていたと考えるほうが自然ではないでしょうか」

 

大輔さんは、しばらく黙り込んでいました。

 

「……母はずっと無理をしてくれていたんですね。全然、気づきませんでした」

 

「気づけないのが普通なんです。親は子に弱みを見せませんから。ちなみに、負担はお母さま側だけではありませんよ」

 

筆者はそういって、大輔さん側の負担も数字で確認しました。ソニー損保が2026年のお盆に車で帰省する予定がある20代~50代の男女1,000名に行った調査では、往復のガソリン代や高速道路代、滞在中の消費、手土産代などを合わせた帰省費用の平均は2.4万円。ただし移動時間が長いほど費用はかさみ、移動時間6時間以上の人では平均6.6万円にのぼります。

 

佐藤家が毎年出している約6万円という金額は、まさにこの長距離帰省組に匹敵する大きな出費です。しかも佐藤家の場合、出費の大きさだけでなく「時間と体力の削られ方」も深刻でした。通常3時間半の道のりが、お盆の大渋滞で片道7時間へ膨れ上がる。お金だけでなく、移動ストレスの面でも大きな負担となる設計になっていたのです。

 

時間コストも見逃せません。NEXCO各社が発表した2026年お盆期間(8月7日~16日)の渋滞予測では、10km以上の渋滞が上下線合計で436回と、前年実績の345回を91回上回る見込みです。なかでも8月15日の関越道上り線・坂戸西スマートIC付近では、約40kmもの渋滞が予測されています。佐藤家がUターンの帰り道に走る、まさにそのルートです。

 

「つまり大輔さん、いまの帰省は、送る側も迎える側もお互いに我慢を積み上げる設計になっているんです。どちらかが悪いのではなく、設計を変えればいいだけの話ですよ」

 

 

次ページお互いの負担にならない帰省、3つの助言

※プライバシーのため、実際の事例内容を一部改変しています。

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