「用事がなくても話したい」初めて伝えた母の本音
マンションでは、平日に体操や囲碁などの催しが開かれていました。久美子さんも何度か参加しましたが、あいさつを交わす人はできても、気軽に電話をかけられるほど親しい相手はいません。
特に寂しさを感じるのは、館内行事のない日曜日でした。
由佳さんへ電話をかけようと思っても、「今週は忙しいと話していた」「特に用事もない」と考え、画面を閉じてしまいます。
「電話一本でいいんです。何かをしてもらいたいわけではありません。ただ、『今日は何をしていたの』と聞いてもらえたら、それでよかったんです」
それでも、子どもたちは自分がマンションで楽しく暮らしていると思っているため、寂しいとは言えませんでした。
内閣府『令和7年人々のつながりに関する基礎調査』では、孤独感が「しばしばある・常にある」と答えた割合は、何らかの社会活動に参加している人では2.1%、特に参加していない人では6.5%でした。人との接点を持つ機会の有無と孤独感には、明確な差がみられます。
久美子さんに変化があったのは、館内の茶話会で同年代の女性と話したことがきっかけでした。その女性も、子どもが近くに住んでいながら、連絡するのは月に一度ほどだといいます。
「待っているだけでは、向こうは分からないわよ。元気だから連絡しなくていいと思っているのかもしれない」
そう言われ、久美子さんは初めて由佳さんへ本音を伝えました。
「忙しいのは分かっているけど、用事がなくても、ときどき電話をしてほしいの」
由佳さんは驚きました。
「マンションで友達もできて、楽しく過ごしていると思っていた。お母さんから連絡がないから、大丈夫なんだと思っていたよ」
話し合った結果、毎週日曜日の夕方に短い電話をすることになりました。長男とも、家族のグループ通話を月に一度行っています。
久美子さん自身も、館内の催しへ定期的に参加し、茶話会で知り合った女性と昼食へ出かけるようになりました。家族からの連絡を待つだけだった休日にも、少しずつ予定が入っています。
高齢者向け住宅は、安全や生活の利便性を支える選択肢になります。ただし、住まいを変えただけで、人とのつながりまで整うとは限りません。家族に遠慮して本音を隠すのではなく、どの程度の連絡や交流を望んでいるのかを伝え、自分からも地域や周囲との接点を持つことが、孤立を防ぐうえで大切です。
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