「ここなら安心だね」娘に勧められて決めた住み替え
「お母さん、今度の日曜日は何をしているの?」
長女の由佳さん(仮名・47歳)から電話がかかってきたのは、久美子さん(仮名・72歳)がシニア向け分譲マンションへ移って間もないころでした。
久美子さんは夫を6年前に亡くし、郊外の戸建てで一人暮らしを続けていました。年金は月約14万円。預貯金は約1,800万円ありましたが、庭の手入れや戸締まりを負担に感じるようになっていたといいます。
住み替えを考えるきっかけになったのは、浴室で転倒したことでした。けがは軽かったものの、翌朝まで誰にも連絡しなかったと知り、由佳さんと長男は心配しました。
「また倒れたら、発見が遅れるかもしれない。見守りのあるところなら安心でしょう」
子どもたちに勧められ、自宅を売却。室内に段差がなく、緊急通報ボタンやフロントサービスのあるマンションを購入しました。
管理費、修繕積立金、見守りサービス料の合計は月約4万5,000円。食費や光熱費、医療費を含めると、年金だけで毎月の支出を賄うことは難しく、不足分は預貯金から補っています。
総務省『家計調査報告(家計収支編)2025年平均結果』によると、65歳以上の単身無職世帯では、可処分所得が月11万8,465円である一方、消費支出は14万8,445円。平均でも毎月の支出が手取り収入を上回っており、資産の取り崩しを伴う生活となっています。
入居当初、由佳さんは週末になると片づけを手伝い、長男も日用品を届けに来ました。
「ここなら安心だね。友達もすぐできそう」
そう言われ、久美子さんも新しい生活に期待していました。しかし荷物が片づき、生活が落ち着くにつれて、子どもたちからの連絡は減っていきます。
由佳さんは仕事と子どもの受験で忙しく、長男も遠方へ転勤しました。電話がかかってくるのは、台風が近づいた日や久美子さんが通院したときが中心です。
「何かあったら、すぐに連絡してね」
子どもたちはそう言いますが、久美子さんが連絡したいのは、何かが起きたときだけではありませんでした。
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