親子が向き合った“これからの暮らし”
和子さんが生活を見直そうと考えたのは、75歳の誕生日を迎えたころです。
足の痛みで数日間、食事の支度ができなくなりました。それでも直人さんは、自分から買い物や調理を引き受けようとはしませんでした。
「何か食べるものはないの?」
部屋からそう聞かれたとき、和子さんは強い不安を覚えたといいます。
「私が元気だから成り立っていただけの生活。実家に戻れば立ち直れると思っていたのに、いつの間にか何もしなくても暮らせる場所にしてしまったのかもしれません」
和子さんは次女に相談し、自治体の自立相談支援機関へ連絡しました。
生活困窮者自立支援制度では、経済面だけでなく、仕事や住まい、家計などの悩みを整理し、本人の状況に応じた支援計画を作成します。すぐに一般就労することが難しい人には、生活リズムや対人関係を整えながら就労を目指す「就労準備支援事業」もあります。
直人さんは当初、「自分は生活困窮者ではない」と面談を拒みました。しかし和子さんは、今後も無条件で生活を支えることはできないと伝えました。
「あなたを責めたいわけじゃない。でも、私の年金と貯金だけで、この先も二人で暮らし続けることはできない。仕事に戻る準備を、一緒に考えてほしい」
次女も同席し、食事や洗濯は直人さん自身が担当すること、翌月から家事と求職活動の予定を決めること、半年後に生活状況を見直すことを確認しました。
相談員との面談後、直人さんは週2回の就労準備プログラムへ参加。すぐに正社員を目指すのではなく、短時間の仕事や職業訓練も含めて検討しています。
厚生労働省の就労支援の手引きでも、長期の離職や社会的孤立など複数の課題を抱える場合、求人との単純なマッチングだけでは就労やその継続が難しく、本人の状況に応じた段階的な支援が必要だとされています。
和子さんは、もっと早く期限を決めて話し合えばよかったと振り返ります。一方で、5年間をすべて無駄だったとも考えていません。直人さんには、仕事を失った直後に休む時間が必要だったからです。
成人した子どもが実家へ戻った場合は、生活費や家事、今後の見通しを曖昧にせず、家族だけで解決が難しければ早い段階で相談機関につなぐことが大切です。親が元気なうちに見直すことが、親子双方の生活を立て直すきっかけになります。
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