(※写真はイメージです/PIXTA)

夫の定年退職後は、旅行や趣味を楽しみながら、夫婦で穏やかに暮らしたいと考える人もいるでしょう。しかし夫婦で過ごす時間が増える前に、住まいや家事、親の介護について認識を確かめておかなければ、一方だけが描いていた老後計画を突然知らされることもあります。

「母さんのことも頼む」夫の一言で見えた老後のすれ違い

帰宅後、明美さんは移住に同意できないと伝えました。

 

現在の自宅からは、スーパーも病院も徒歩圏内です。友人や妹も近くに住んでいます。一方、孝夫さんが選んだ地域では、日常の移動に車が欠かせず、明美さんは運転免許を持っていません。

 

さらに、義母の世話が必要になれば、食事を届けるだけで終わるとは限りません。通院の付き添いや買い物、家事、介護サービスの手続きまで担う可能性があります。

 

厚生労働省『2022(令和4)年 国民生活基礎調査』によると、要介護者等と同居する主な介護者のうち、女性は68.9%を占めています。家族の介護負担は、現在も女性に偏りやすい状況です。

 

「お義母さんを心配する気持ちは分かる。でもあなたが親孝行するために、私が介護することを勝手に決めないで」

 

明美さんがそう伝えると、孝夫さんは「介護なんて大げさだ」と反論しました。

 

しかし、久子さんが今後どの程度の支援を必要とするのか、夫婦は確認していません。地域包括支援センターへ相談したこともなく、孝夫さん自身がどこまで関わるのかも決めていませんでした。

 

明美さんがさらに不安を感じたのは、家の売却や退職金についても、孝夫さんが「自分のお金」と考えていたことです。

 

「俺が働いて買った家だし、退職金も俺が働いた結果だろう」

 

明美さんは、離婚を考えていたわけではありません。それでも、専業主婦だった自分には何も残らないのではないかと不安になり、自治体の法律相談を利用しました。

 

裁判所は、財産分与について、夫婦が婚姻中に協力して取得した財産を離婚時または離婚後に分けるものと説明しています。名義が一方だけであっても、婚姻中に協力して取得・維持した財産は財産分与の対象になり得ます。

 

明美さんは、その知識を離婚のためではなく、夫と対等に話し合うために必要だったと振り返ります。

 

夫婦は自宅の売却をいったん見送りました。久子さんについては孝夫さんが地域包括支援センターへ相談し、必要な支援を確認することに。移住を再検討する場合も、明美さんが一人で義母の世話を引き受けないことを条件にしました。

 

孝夫さんは当初、不満そうでしたが、母親の通院予定や家事の状況を確認するうちに、「近くへ移れば妻が何とかしてくれる」と考えていたことを認めました。

 

老後の住まいや親との関わり方は、夫婦のどちらか一人だけで決められるものではありません。退職後に何を大切にしたいのか、どこまで支え合えるのかを、結論を急ぐ前に話し合うことが、お互いの納得につながります。

 

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