前回は、創業時の経営理念や現経営理念が社内に浸透しているか、確認すべき理由を説明しました。今回は、新しい経営理念はどのように作ればいいのかを見ていきます。

「後継者主導」で考えたい新経営理念

会社の経営理念に関し、こうした十分な振り返りを行った上で、いよいよ後継者による新体制での経営理念づくりの段階へと進みます。

 

ここで優先し、尊重するのは、あくまでも後継者が「どういう会社をつくっていきたいか」という意思です。はじめから「こういうものがいいだろう」と現経営者が先導してしまうのではなく、自発的に後継者から出てくるものをたたき台にして両者で検討を進めるべきです。

 

企業規模の見直しと同様に、これから会社を経営していく後継者にとっては自分で打ち出す経営理念であることが重要になってきます。現経営者が先導すると、やはり「親父がこう言ったから」と結局は人のせいにしてしまうことも後になって出てくる可能性を残します。

 

あるいは、事業規模の検討の段階も含め、もしかするとここまでの作業において、後継者が遠慮がちになってしまっていて、自らのビジョンを完全にアウトプットしていなかったということも考えられます。

 

もし現経営者が、一代で事業を興して軌道に乗せた、マルチで「強い経営者」であった場合には、経験の浅い後継者は萎縮してしまい、思うことを素直に伝えられないでいたのかもしれません。

 

もっともその萎縮してしまう心理の奥には、当然敬意が含まれています。もし、そうした雰囲気を感じたならば、経営者は少しハードルを下げて、急ぎ過ぎずに後継者の本音を引き出してみることを試みるべきです。ただし、あくまでもこの過程での主導権は、後継者に委ねて進めるべきと言えます。

旧来の価値観に縛られ過ぎないように心がける

伝えたいこと、継がせたいことは確かに大事です。誤解しないでいただきたいのは、それらをすべて押しとどめて、ゼロベースからスタートすべきではないということ。

 

もちろん、伝えたいこと、継がせたいことも後継者に提示していかなければなりません。しかしこの場の目的は、あくまでも会社の未来をつくる経営理念ですから、旧来の価値観に縛られ過ぎないように心がけることが大切です。未来の主役は後継者なのです。

 

「そこまでお膳立てが必要か」「そんな軟弱な態度で経営者が務まるのか」――そんな気持ちは確かに分かります。

 

しかしながら、やはりここで思い出さなければならないのが、たとえ肉親であっても経営者と後継者は別の人格だと言うことです。当然、同じようにはいきません。また、経営者が駆け抜けてきた時代と今の時代は明らかに異なっているのです。

本連載は、2016年6月24日刊行の書籍『たった1年で会社をわが子に引き継ぐ方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

たった1年で会社を わが子に引き継ぐ方法

たった1年で会社を わが子に引き継ぐ方法

浅野 佳史

幻冬舎メディアコンサルティング

近年、日本の多くの中小企業が承継のタイミングを迎えています。承継にあたっては、親から子へと会社を引き継ぐパターンが多いのですが、親子間だからこそ起こるトラブルがあることを忘れてはいけません。 中小企業白書による…

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