玄関をふさいでいた、未開封の段ボール箱
修一さん(仮名・55歳)が母・春子さん(仮名・81歳)の実家を訪ねたのは、約1年ぶりのことでした。
春子さんは10年前に夫を亡くし、持ち家で一人暮らしをしています。年金は月約14万円。住宅ローンはなく、以前は「贅沢しなければ十分」と話していました。
修一さんは月に数回電話をしていましたが、仕事が忙しく、実家を訪れる機会は減っていました。母から困り事を相談されたこともありません。
ところが、合鍵で玄関を開けると、宅配便の段ボール箱がいくつも積まれていました。中には同じ会社名が書かれた箱が複数あり、ほとんどが未開封です。
「これ、全部何なの?」
修一さんが尋ねると、春子さんは「健康食品よ」と答えました。
室内にも、サプリメントや青汁、化粧品などが大量に残っていました。いずれも春子さんが新聞広告やテレビ番組を見て注文した商品です。
最初は数千円の商品を1回だけ購入するつもりでした。しかし、注文の電話で別の商品を勧められたり、定期購入を申し込んだことになっていたりして、毎月複数の商品が届くようになったといいます。
通帳を確認すると、商品代として毎月6万~8万円が引き落とされていました。さらに、支払いが足りない月には、夫が残した預金から補填していました。
「どうして解約しなかったんだよ」
修一さんが聞くと、春子さんは、何度か電話をかけたものの、うまく話を進められなかったと説明しました。
「電話したら、もう少し続けたほうがいいと言われたの。身体のために必要なのかと思って……」
春子さんは、同じ説明を何度も聞くうちに、どの商品をいつ契約したのか分からなくなっていました。請求書や納品書も整理されておらず、契約先は少なくとも7社に及んでいました。
国民生活センターは、テレビや新聞広告を見て電話注文した際に、別の商品や定期購入を勧められるトラブルについて注意を呼びかけています。高齢者が解約できずに放置している場合には、家族などが手続きを手助けすることも必要だとしています。
修一さんがさらに家計を確認すると、春子さんは食費を月2万円ほどに抑え、エアコンの使用も控えていました。
「お金がないなら、どうして言わなかったの?」
「こんなものを買っていたなんて、恥ずかしくて言えなかった。あなたにも怒られると思ったの」
誰にも相談できないまま、契約を続けていたのです。
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