「これが最後だから」長年の夢だった世界一周クルーズへ
「世界一周の船旅に申し込もうと思うの」
恵美子さん(仮名・68歳)がそう伝えると、42歳の長女は驚きました。
「一人で約3ヵ月も船に乗るの? お母さん、海外旅行にも慣れていないでしょう」
恵美子さんは、夫を亡くして3年。年金は月約15万円で、退職金や夫から相続した預貯金を合わせて約3,600万円あります。住宅ローンを完済した戸建てに一人で暮らしていました。
夫婦は現役時代から「退職したら世界を見て回ろう」と話していました。しかし、夫が退職後に体調を崩したため、海外旅行を実現できないまま亡くなったのです。
ある日、新聞広告で約100日間の世界一周クルーズを知りました。費用は一人部屋の追加料金や寄港地での観光代などを含め、約500万円。決して気軽に出せる金額ではありません。
「これが最後の海外旅行だから。お父さんの分まで見てきたいの」
長女は心配しましたが、恵美子さんの意思は変わりませんでした。
出発前には、今後の生活費も計算しました。自宅を所有しているため家賃はかかりませんが、固定資産税や修繕費、庭木の手入れが必要です。それでも預貯金を取り崩せば、旅行後も暮らしていけると判断しました。
乗船初日、港で見送る家族の姿が小さくなると、不安が押し寄せたといいます。
「船内で友達ができなかったらどうしよう。途中で具合が悪くなったらどうしようと、部屋で泣きました」
ところが、夕食時に相席になった同年代の女性から声をかけられます。その女性も夫を亡くし、一人で参加していました。
船内では一緒に体操教室へ通い、寄港地ではグループで街を歩きました。恵美子さんは、夫の死後初めて「翌日の予定を楽しみにしながら眠れた」といいます。
観光庁『旅行・観光消費動向調査』の2024年結果では、70代以上の観光・レクリエーション目的の国内宿泊旅行実施率は約31%で、2019年の約39%を下回りました。高齢期には、健康や費用などの事情から、旅行したくても実行できない人もいます。
「最後の旅行だと思ったから、迷わず参加できたんです。でも、船の上では、まだ終わりにしなくてもいいのではないかと思い始めました」
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