(※写真はイメージです/PIXTA)

成人した子どもから生活費や借金の返済を頼まれたとき、親は簡単には突き放せないものです。一度だけのつもりで援助しても、困るたびに頼られる関係へ変わることがあります。子どもを助けたい気持ちと、自分の老後を守ること。その間で線を引くのは、親子だからこそ難しい問題です。

「お金を出さないなら、もう会わない」食事のあとに残った後悔

「今回は渡せない。まず、借りている金額を全部整理しよう」

 

良子さんがそう伝えると、直樹さんの表情が変わりました。

 

「3万円の食事代は払えるのに、息子には50万円も貸せないんだ」

 

「食事と借金は別でしょう。これ以上、理由も分からないまま渡せないの」

 

良子さんが譲らないと、直樹さんは席を立ちました。

 

「分かった。もう会わないから」

 

そのまま店を出ていき、良子さんが追いかけても振り返りませんでした。電話もメッセージも拒否され、それ以降、半年近く連絡はありません。

 

「ごちそうしたことを後悔しています」

 

良子さんがそう話すのは、3万円が惜しかったからではありません。

 

高価な食事を用意し、何も問題がないように振る舞ったことで、「母親にはまだお金がある」「頼めば出してくれる」と思わせたのではないか。楽しい食事の時間さえ、直樹さんにとっては援助を頼むための前置きだったのではないか。そう考えるようになったのです。

 

一方で、50万円を渡していれば親子関係が続いたとも思えませんでした。これまでの援助も、その場をしのぐだけで、直樹さんの生活を立て直すことにはつながらなかったからです。

 

生活困窮者自立支援制度では、本人の状況に応じて就労支援や家計改善支援を行い、収支や債務を整理しながら生活の立て直しを支援します。相談窓口は自治体ごとに設けられています。

 

良子さんは、連絡手段の一つだけは残し、「お金は渡せないけれど、相談窓口へ行くなら一緒に行く」とメッセージを送りました。既読にはなっていません。

 

あの日が直樹さんとの最後の食事になるかどうかは、まだ分かりません。ただ、良子さんは再び会えたとしても、以前のように現金を渡すつもりはないといいます。

 

「会いたい気持ちはあります。でも、会うためにお金を払うような親子にはなりたくありません」

 

良子さんに残った後悔は、ごちそうしたことそのものではなく、食事や援助によって親子のつながりを保とうとしてきたことへの後悔でした。

 

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