「来週は無理よ」初めての断りに返ってきた言葉
夫婦の不満が表面化したのは、以前から予約していた2泊3日の温泉旅行をめぐる出来事でした。出発の1週間前、由香さんから電話がかかってきます。
「来週の金曜、二人を泊めてもらえる? 夫婦とも仕事で遅くなるの」
洋子さんが旅行の予定を伝えると、由香さんは困ったような声を出しました。
「でも、その日は本当に頼める人がいないの。旅行なら別の日でも行けるでしょう?」
その言葉を聞いた敏夫さんは、電話を代わりました。
「私たちにも予定があるんだけど。いつも都合をつけられるわけじゃないよ」
電話の向こうで、由香さんはしばらく黙っていました。
「お母さんたちが孫に会いたがっていたから、頼ってもいいと思ってた」
通話を終えたあと、洋子さんは涙を流しました。孫が嫌なのではありません。むしろ会える日は楽しみでした。ただ、断らないうちに、娘から「いつでも預けられる存在」と思われていたことが苦しかったのです。
温泉旅行は予定どおり出かけました。帰宅後、夫婦は由香さん夫婦を呼び、今後の孫の世話について話し合うことにします。
送迎は週1回まで。急な発熱への対応は、夫婦に予定がない場合に限る。食費や交通費として月1万円を由香さん側が負担し、宿泊を伴う預かりは原則として1ヵ月前に相談する――。曖昧だった約束を、具体的に決め直しました。
由香さんは当初、「そんなに負担だったなら早く言ってほしかった」と不満を見せました。しかし、夫婦から、通院や友人との予定を何度も変更していたことを聞き、初めて状況を理解したといいます。
自治体が実施するファミリー・サポート・センターでは、会員同士の相互援助として、保育施設や学校への送迎、放課後や保護者の残業時の預かりなどを行っています。利用条件や料金は地域で異なりますが、祖父母以外の支援先として検討できる制度です。
由香さんも市の制度に登録し、夫婦に頼めない日は有料の支援を利用するようになりました。
その後、洋子さんは体操教室へ戻り、敏夫さんも中断していた写真撮影を再開しています。孫と過ごす時間がなくなったわけではありません。回数が減ったからこそ、迎える日を以前より楽しみにできるようになりました。
祖父母が自分たちの生活を後回しにしてまで、孫を支える必要はありません。夫婦が疲れ果てる前に必要だったのは、一切の協力をやめることではなく、無理なく続けられる範囲を家族で確かめることでした。
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