(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢者向けの設備や見守りサービスが整った住まいは、一人暮らしの不安を軽減してくれます。しかし、安全な環境に移ったからといって、寂しさまでなくなるとは限りません。家族に心配をかけたくないという遠慮から、会いたい気持ちを口にできず、休日の静けさに孤独を感じる人もいます。

「用事はないけれど会いたい」…言えなかった休日

久美子さんが特に寂しさを感じるのは、予定のない休日でした。

 

平日は館内の体操教室に参加したり、近所のスーパーへ出かけたりします。顔を合わせればあいさつを交わす入居者も増えましたが、互いの部屋を訪ねるほど親しい人はいません。

 

ある日曜日、長女へ電話をかけようとして、久美子さんは指を止めました。前日に届いたメッセージには、「今日は下の子の試合。来週は上の子の引っ越し準備」と書かれていたからです。

 

「子どもたちも忙しいから。用もないのに電話したら悪いでしょう」

 

そう話しながらも、久美子さんは長女一家の写真が表示された画面を、しばらく見つめていました。

 

その日の夕方、ラウンジで同年代の女性から声をかけられます。

 

「日曜日って、ここは静かすぎると思わない?」

 

思いがけない言葉に、久美子さんは笑いました。女性も子どもが遠方に住んでおり、休日は話し相手がいないことが多いといいます。

 

それから二人は、日曜の午後にラウンジでお茶を飲むようになりました。館内の掲示板を使い、ほかの入居者にも声をかけると、少しずつ参加者が増えていきます。

 

久美子さんはその後、長女にも初めて本音を伝えました。

 

「何かをしてほしいわけじゃないの。ただ、ときどき一緒にご飯を食べたいの」

 

長女は驚き、「お母さんはマンションで楽しく過ごしていると思っていた」と答えました。話し合った結果、月に一度は家族で昼食をとり、会えない週も短い電話をすることになりました。

 

シニアマンションへ移ったことで、久美子さんは安全な暮らしを手に入れました。しかし、本当に欲しかったのは、心配されたときだけ届く連絡ではありません。

 

「会いたい」と伝え、同じ建物に暮らす人にも自分から声をかける。静かな休日を変え始めたのは、設備やサービスではなく、久美子さんが遠慮せずに口にした小さな願いでした。

 

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