父の死後に明らかになった、見事な「生前対策」
そんな折、父の病気が発覚しました。入退院を繰り返し、Aさんも母も懸命に看病したものの、ほどなくして逝去。いつかはこうなる日が来るという覚悟はしていたものの、頼りにしていた父が66歳という若さでこの世を去り、想像を超える辛さがありました。
しかし、父は生前、自身の“その後”を見据えていたかのように、見事な生前対策を行っていたようです。
1.遺言書
父は生前、自分にもしものことがあったときについて家族について話しており、また遺言書にもそのとおりの内容が記してありました。
2.管理会社の物件は、相続財産の対象外に
多くの不動産を持っていた父が亡くなったことから、Aさんと母は相続税の申告や名義変更など、煩雑な手続きが多くなるだろうと覚悟し、2人で協力しながら整理を進めることに。すると、その過程で驚くべき事実が次々と判明しました。
まず、さまざまな不動産の管理をしていた管理会社については、生前の株式の贈与により株主名簿にいっさい父の名前がない状態だったため、相続財産の対象外であることがわかりました。
個人の相続については、不動産・預金・保険金など申告に必要な財産は当然ありましたが、管理会社分がまるごと対象外となったことで、相続内容は非常にシンプルなものになりました。
さらに、父は早い段階から贈与を進めていたため、生前贈与加算の対象にも該当しませんでした。
3.個人の不動産は、評価額の低さと借入の多さで純資産がマイナスに
ただし、父は個人としても不動産を所有していたため、それらは相続財産の対象となります。しかし、借入額が約8億円と非常に大きかったことから、相続財産として評価すると、賃貸不動産の相続の評価額を借入額で相殺できる結果となりました。
というのも、父が個人で所有していた不動産は地方にあり、土地の評価が高くありませんでした。購入当初も、土地より建物の価格が大きい物件だったため、相続税評価を行うと、土地・建物ともに借入残高よりかなり低い評価額となることが判明したのです。
4.小規模宅地の特例
また、相続税の土地評価には「小規模宅地の特例」があり、Aさん一家はこの制度を利用することができました。小規模宅地の特例とは土地の評価額を大きく減額できる制度で、具体的には次のような内容です。
・賃貸不動産の土地の評価……200m2までは50%減額
・自宅の土地の評価……330m2までは80%減額
この特例は、相続人の状況によって適用要件が変わりますが、Aさん一家は要件を満たしていたため、相続税を大幅に軽減する要因となりました。
5.生命保険金
さらに、生命保険金も相続税の非課税枠があります。
死亡保険金の非課税枠……500万円×法定相続人の数
この非課税枠を活用できたことも、相続税負担を抑える大きなポイントとなりました。
相続が発生すると預金は凍結されることが一般的ですが、生命保険金は手続きをすれば速やかに受け取ることが可能です。預金が使えなくなる可能性を踏まえ、保険金を準備しておくことは非常に重要な対策といえます。
6.配偶者の税額軽減
ちなみに相続税には、配偶者に対して大きな軽減措置があります。下記のいずれか多い金額までは、配偶者に相続税がかかりません。
1.1億6,000万円
2.配偶者の法定相続分相当額
Aさん一家の場合、母が相続した財産がちょうどこの範囲内に収まっていたため、相続税はかかりませんでした。
2年後、税務調査の結果は…
こうして、父が生前に行っていたさまざまな対策のおかげで、大きな負担を感じることなく相続手続きを終えることができたAさんと母。遺言書の内容に沿って進めた結果、母は相続税ゼロ、上場株式や預金などを相続したAさんも想定よりはるかに少ない納税額で済み、死亡保険金の範囲内で対応できました。
それから2年後。財産額が大きかったこともあり、相続税の税務調査が入りました。
しかし、調査官が会社の株式や預金などすべての財産を確認した結果、申告内容に漏れは一切なく、見事「是認」で調査は終了。調査官は「相続税はゼロです」と告げ、A家を後にしました。
父の周到な準備と家族への深い思いやりに、Aさんも母も感謝の気持ちでいっぱいになりました。
木戸 真智子
税理士事務所エールパートナー
税理士/行政書士/ファイナンシャルプランナー
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