「いつまで住むのか」とは聞けないが…父の本音
ある日、正雄さんは理恵さん宛ての郵便物が入った封筒に気づきました。不動産会社から届いたものでした。
「部屋を探しているのか?」
正雄さんが尋ねると、理恵さんは首を横に振りました。
「更新前に問い合わせたところから、まだ案内が届いてるだけ。今の収入じゃ借りられないし、しばらくここにいるつもりだよ」
“しばらく”がどのくらいなのか、正雄さんには聞けませんでした。「帰っておいで」と言ったのは自分たちです。今さら期限を尋ねれば、追い出そうとしているように受け取られる気がしました。
しかし、夫婦にも考えていた老後がありました。正雄さんは退職後に始めた写真撮影のため、月に一度は遠方へ出かける予定でした。昌子さんも友人との旅行を楽しみにしていましたが、孫の食事や留守番を考えると、二人同時に家を空けにくくなっていました。
「理恵が嫌なわけじゃない。でも、このままずっと4人で暮らすのかと思うと、少し苦しい」
正雄さんがそう打ち明けると、昌子さんも初めて本音を口にします。
「私も疲れてる。でも、帰ってきていいと言ったのに、今さら何て言えばいいのか分からないの」
夫婦は理恵さんを交え、初めて今後について話し合いました。
理恵さんは、親が同居を負担に感じているとは思っていなかったといいます。月3万円を渡しているため、家計面でも大きな迷惑はかけていないつもりでした。
話し合いの結果、理恵さんは生活費を月5万円に増やし、夕食の片づけと休日の洗濯を担当することに。1年以内に正社員への転職を目指し、収入が安定した時点で近隣の賃貸住宅を探すという期限も決めました。
すぐに別居できるわけではありません。それでも、終わりの見えなかった同居に一つの区切りができたことで、夫婦の気持ちは少し軽くなりました。
理恵さん一家を迎えたことを後悔しないためにも、昌子さん夫婦には、できることと続けられないことを伝える必要があったのです。
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