キャンセル料の明細を前に、夫が口にした本音
夫婦が孫の世話を始めてから、3年が過ぎました。
ある春、二人は退職前から楽しみにしていたヨーロッパ旅行を予約しました。日程は10日間。由佳さんにも半年前から伝えていました。
ところが出発の1ヵ月前、由佳さんから連絡がありました。
「その週、夫が海外出張になったの。私も休めない日があるから、旅行をずらせないかな」
美智子さんはすぐに返事ができませんでした。
すでに航空券とホテルの変更には費用がかかる時期です。それでも由佳さんは、「近くに頼れる人がお母さんたちしかいない」と繰り返しました。
結局、夫婦は旅行を取りやめました。キャンセル料は二人分で約24万円でした。食卓に置かれた明細を見ながら、和夫さんが言いました。
「俺たちの旅行の予定は、全部白紙になったな」
責めるような口調ではありませんでした。そのことが、美智子さんにはかえってこたえました。
「お金がもったいないというだけじゃないんだ。元気なうちに行こうと話していたのに、いつまで先延ばしにするんだろうと思って」
夫婦の貯蓄は十分にあります。しかし、旅行に使えるお金があっても、自由に出かけられるとは限りませんでした。
数日後、由佳さんから、夏休み中は週4日孫を預かってほしいと頼まれました。美智子さんは、初めてその場で断りました。
「困ったときは助ける。でも、毎週決まった曜日に預かるのは、今年度までにしたいの」
由佳さんは驚き、「急に言われても困る」と答えました。
そこで夫婦は、孫の世話を完全にやめるのではなく、保育サービスや民間の送迎、夫婦それぞれの勤務調整を組み合わせるよう提案しました。急病時は可能な範囲で対応する一方、定期的な送迎は月2回までと決めました。
由佳さんが納得するまでには時間がかかりました。それでも、翌年の春からは外部サービスを利用し、夫婦への依頼は大きく減りました。
美智子さんと和夫さんは、キャンセルしたヨーロッパ旅行を半年後に予約し直しました。
孫と過ごした時間を後悔しているわけではありません。ただ、頼まれるたびに自分たちの予定を変えていれば、その状態がいつまで続くのかは誰にもわかりません。
子や孫を支えることと、祖父母が自分たちの生活を大切にすることは両立できます。そのためには、できることだけでなく、できないことも家族の間で伝えておく必要があるのです。
【関連記事】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】

