「母さんが出すと言ったんだろ」息子から届いた返信
振り込みから1年半が過ぎたころ、春子さん宅の給湯器が故障しました。交換費用として約40万円が必要でしたが、預金は年金だけでは足りない生活費の補填にも使っており、残高は500万円を下回っていました。
春子さんは迷った末、達也さんにメッセージを送りました。
「前に少しずつ返すと言っていた学費だけど、月1万円でも返してもらうことはできる?」
すぐに返事はありませんでした。翌日、届いたのは短い文章でした。
「母さんが出すと言ったんだろ。頼んだ覚えはない。今さら返せと言われても困る」
春子さんは、何度も画面を読み返しました。
確かに、借用書は作っていません。返済額や期限を決めたわけでもなく、春子さん自身も「貸す」と明確には伝えていませんでした。
それでも、「少しずつ返す」という息子の言葉を信じていました。
「返せないなら、そう言ってくれればよかったんです。最初から頼んでいないように言われたことがつらかった」
春子さんが電話をかけると、達也さんは「美咲には奨学金の返済もあるし、次男の進学も控えている」と説明しました。
「孫に使ったお金なのに、返してほしいなんて言うの?」
その言葉を聞き、春子さんは何も言えなくなりました。
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の単身無職世帯では、可処分所得は月約11万8,000円である一方、消費支出は約14万8,000円と、支出が手取り収入を上回る状況が続いています。高齢期の一人暮らしでは、不足分を預貯金の取り崩しで補っている世帯も少なくありません。
なお、祖父母が孫の学費を負担する場合、通常必要と認められる教育費を必要な都度、直接その用途に充てれば、原則として贈与税はかかりません。ただし、教育費の名目でまとめて渡し、預金などに回した場合は扱いが異なることがあります。
春子さんは結局、給湯器の交換費用を別の定期預金から支払いました。それ以来、達也さんとは必要な連絡しかしていません。
孫の進学を応援したことを後悔しているわけではありません。しかし、家族だからと口約束だけで大きなお金を渡したことについては、「もっと話し合うべきだった」と振り返ります。
親子であっても、援助するお金が贈与なのか貸付けなのか、返済するなら金額や時期をどうするのかを確認しておく必要があります。春子さんが今も忘れられないのは、失った120万円だけではありません。孫を思って差し出したお金を、「頼んだ覚えはない」と切り離した息子の言葉でした。
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