「入学を諦めさせたくない」定期預金を解約した母
春子さん(仮名・67歳)は、夫を亡くしてから一人で暮らしています。受け取っている年金は月約14万円。持ち家のため家賃はかかりませんが、固定資産税や住宅の修繕費に備えながら、毎月数万円ずつ貯蓄を取り崩していました。
ある年の2月、長男の達也さん(仮名・43歳)から電話がありました。
「美咲が私立大学に合格したんだけど、入学金の準備が間に合わないんだ」
達也さんは妻と高校生の次男との4人暮らしです。前年に勤務先を変えたことで収入が減り、さらに車の故障も重なったといいます。
必要なのは、入学金や前期授業料など約90万円でした。
「教育ローンも申し込んでいるけど、支払い期限までに間に合うかわからない。入学を辞退させるしかないかもしれない」
孫の美咲さん(仮名)は、小学生のころから希望していた仕事に就くため、その大学を目指していました。春子さんは電話を切ったあと、何度も通帳を見返しました。
亡き夫と蓄えた預金は約650万円。そのなかには、自宅の給湯器や屋根の修理に備えたお金も含まれています。
翌日、春子さんは達也さんに連絡しました。
「私が出すよ。美咲に諦めさせるのはかわいそうだから」
「本当にいいの? 少しずつでも返すから」
その言葉を聞き、春子さんは定期預金を解約しました。達也さんの口座へ90万円を振り込み、さらに入学後には教科書代や通学用のパソコン代として、合計30万円ほどを援助しました。
文部科学省『令和7年度 私立大学入学者に係る初年度学生納付金等調査』によると、私立大学の初年度学生納付金等の平均は約151万円です。入学料だけでなく、授業料や施設設備費なども必要となり、入学年には家計への負担が集中します。
春子さんも、孫の進学にこれほどお金がかかるとは知りませんでした。それでも、美咲さんから届いた「大学に行かせてくれてありがとう」というメッセージを読み、援助してよかったと思っていました。
ところが、達也さんから返済の話が出ることはありませんでした。
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