「心配かけたくなかった」母が隠していた暮らしの変化
夕食を一緒に食べながら、隆志さんはあらためて尋ねました。
「スーパーに行くのが大変なら、なんで言わなかったの?」
和枝さんはしばらく黙ったあと、こう答えました。
「言ったら、あんたすぐ心配するでしょう」
隆志さんには仕事があり、家庭もあります。和枝さんは、息子を呼びつけたり、買い物を頼んだりするのは申し訳ないと考えていました。
庭の草が伸びても、「涼しくなったらやればいい」。郵便物がたまっても、「そのうち整理すればいい」。料理が面倒になっても、「食べていないわけではない」。
一つひとつは大きな問題ではありません。しかし、それが半年ほどの間に重なっていました。
「電話なら元気に話せるのよ。別に寝込んでいるわけでもないし。でも、前みたいに全部やるのはしんどくなったかな」
その言葉を聞いて、隆志さんはようやく「元気かどうか」だけを確認していた自分に気づいたといいます。
翌日、親子で生活を見直しました。まず、重い米や飲料、日用品は宅配を利用することにしました。庭の手入れは年に数回、業者へ依頼します。
隆志さんも以前より短い間隔で帰省し、難しい場合にはオンライン通話で顔を見ながら話すようにしました。
さらに、今後困りごとが増えた場合に備え、地域包括支援センターについても確認しました。地域包括支援センターは、市町村が設置する高齢者の総合相談窓口で、介護だけでなく、生活や見守りなどについても相談できます。
「施設に入れたいわけじゃないんです。母も今の家で暮らしたいと言っています。ただ、“一人で暮らせているから大丈夫”で終わらせてはいけないと思いました」
和枝さんも、以前より息子へ頼み事をするようになりました。
「この前はね、『電球が切れた』って自分から電話したの。そんなことで呼ぶなって言われるかと思ったけど」
そう笑う母を見て、隆志さんは少し安心したといいます。
高齢になっても、一人暮らしを続けている人は少なくありません。ただ、これまで自分でできていたからといって、家事や買い物を今も同じようにこなせているとは限りません。
和枝さんの暮らしは、ある日突然大きく変わったわけではありません。買い物へ行く回数が減り、料理をするのが億劫になり、片づけを後回しにする――。一つひとつは小さな変化でも、それが重なれば以前と同じ生活ではなくなっていきます。
電話で「大丈夫?」と尋ねるだけでなく、何を食べたか、買い物にはいつ行ったか、家のことで困っていることはないか。暮らしの様子を具体的に聞くことで、初めて見えてくる変化もあります。
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