「運転できなくなったらどうする?」移住3年目に浮かんだ不安
移住から3年後、博之さんは75歳になりました。ある日買い物から帰る途中、交差点で一瞬判断が遅れ、後続車にクラクションを鳴らされました。
事故にはなりませんでした。それでも帰宅後、美代子さんが言いました。
「あなたが運転できなくなったら、私たちどうするの?」
その言葉に、博之さんも黙り込みました。
美代子さんは運転免許を持っていません。町には路線バスがありますが、本数は少なく、自宅から停留所までも距離があります。タクシーを使えば買い物や通院はできますが、毎回となれば費用もかかります。
さらに夫婦が予想していなかったのが、地域との付き合いでした。
移住当初は親切に声をかけてもらい、ありがたく感じていました。しかし自治会の清掃や地域行事への参加、草刈りなど、都市部のマンションではほとんど経験しなかった役割もありました。
「嫌な人がいるわけではないんです。でも、思っていたより“自分たちだけで静かに暮らす”という感じではありませんでした」
庭の管理も、70代半ばになると負担になりました。夏場の草刈りは業者に依頼するようになり、冬には水道管の凍結対策も必要です。
夫婦は現在、すぐに元の街へ戻るつもりはありません。近所には親しくなった人もおり、庭で過ごす時間も気に入っています。ただ、今後については考え直し始めました。
車を運転できるうちは現在の家で暮らし、難しくなった段階で、町の中心部にある小さなマンションや、高齢者向け住宅へ移ることも検討しています。
「田舎なら幸せになれると思っていました。でも、楽ではないですね」
地方移住には、自然環境や住居費の安さなど多くの魅力があります。一方で、高齢期には車に頼らず生活できるか、必要な医療を受けられるか、地域との付き合いを負担なく続けられるかまで考える必要があります。
憧れの場所に住むことと、そこで10年、20年と暮らし続けられることは別です。老後の移住では「住みたい場所」だけでなく、「年齢を重ねても暮らせる場所か」という視点も欠かせないのでしょう。
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