旅行へ出発する朝…自宅前に座っていた85歳母
「母さんが来てる……」
車に荷物を積もうと玄関を出た正志さん(仮名・65歳)は、門のそばに座る母・文子さん(仮名・85歳)の姿を見つけ、思わず妻を呼びました。
その日は、正志さん夫婦にとって特別な日でした。
正志さんは数ヵ月前、40年以上勤めた会社を退職。妻の恵子さん(仮名・63歳)と、退職祝いを兼ねて3泊4日の温泉旅行へ出発する予定だったのです。
夫婦の年金は月約22万円。住宅ローンも完済し、子どもはすでに独立しています。
「ようやく二人で平日に旅行できるね」
前日まで、そんな話をしていました。ところが、自宅前には大きめのバッグを持った文子さんがいました。
「どうしたの? 連絡くらいしてよ」
正志さんが尋ねると、文子さんは当然のように言いました。
「しばらくここに泊めてもらおうと思って」
文子さんは夫を亡くしてから、一人暮らしを続けています。正志さん宅まではバスと電車を乗り継いで40分ほど。身の回りのことは自分ででき、買い物にも一人で出かけていました。
ただ、この1年ほどで正志さんを頼る場面が増えていました。蛍光灯を替えてほしい。重い米を買ってきてほしい。病院へ車で送ってほしい――。
現役時代には「仕事だから」と断れる日もありましたが、退職してからは事情が変わりました。
「もう毎日休みなんでしょう?」
そう言われると、正志さんも断りにくく、週に何度か母の用事を済ませるようになっていました。
今回も文子さんには理由がありました。数日前、近所で親しくしていた同年代の女性が救急搬送されたと聞き、急に一人で暮らすことが怖くなったというのです。
「夜中に何かあったらと思ったら眠れなくなって。あんたも仕事を辞めたんだから、少しくらいいいでしょう?」
正志さんは言葉を失いました。
「今日から旅行なんだよ」
そう伝えると、今度は文子さんが驚きました。
「私には何も言ってなかったじゃない」
内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、2025年において、65歳以上人口に占める一人暮らしの割合は男性18.3%、女性25.4%と推計されています。高齢者の単身生活が珍しくなくなる一方、年齢とともに生活上の不安が強まれば、近くにいる家族への期待が大きくなることも考えられます。
【8月9日(日)までに登録完了した方限定】
『5分でわかる!「資産管理会社」基本の「キ」』
セミナー資料抜粋版プレゼントキャンペーン
>>ゴールドオンライン・エクスクルーシブ倶楽部<<
