「困ってない。でも余裕もない」母が初めて知った息子の本音
美和子さんは、その場で改めて言いました。
「やっぱり少し仕送りしようか?」
しかし拓海さんは首を振りました。
「困ってるわけじゃないよ」
美和子さんが冷蔵庫を指さすと、拓海さんは少し困った顔をしました。
「食べられてるし、家賃も払えてる。ただ、余裕はそんなにないってだけ」
社会人になったのだから親に頼りたくない。そう考える一方、拓海さんにはもう一つ理由がありました。
美和子さん夫婦も50代です。住宅ローンが残り、自分たちの老後資金も準備しなければなりません。
「俺に2万円送るなら、お母さんたちが取っておいたほうがいいでしょ」
美和子さんは、息子が「自分でやりくりできている以上、親からお金を受け取る必要はない」と考えていたのだと気づきました。一方で、毎月5万円を貯めるために食事や交際費まで削る生活を続けることにも不安を感じました。
「貯金も大事だけど、ご飯まで削らなくていいんじゃない?」
その日の夕方、親子で近所のスーパーへ行きました。美和子さんが肉や魚をかごに入れようとすると、拓海さんは「高いからいい」と何度も戻そうとしました。
結局、美和子さんは「今日は私が遊びに来たんだから」と夕食代だけを払い、久しぶりに親子で食卓を囲みました。
その後、毎月の仕送りはしていません。
代わりに、実家から米や日持ちする食品を送る際には、拓海さんが必要なものを自分から伝えるようになりました。帰省したときには、美和子さんも以前のように「お金は足りている?」と繰り返し聞かないようにしています。
「仕送りを断るから余裕があると思っていました。でも、息子なりに必死で自立しようとしていたんですね」
親が金銭的に助けることが、常に正解とは限りません。一方で、「いらない」という言葉だけで生活に余裕があると判断することもできません。
独立した子どもとの関係では、困ったときに相談できる関係を残しておくことも大切です。親子双方が無理をせず、それぞれの家計を守れる距離を探していく必要があるのでしょう。
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