前回は、緊縮政策を受け入れたギリシャで、急激な勢いで進んだ構造改革と民営化についてお伝えしました。今回は、舞台を変えてスペインの政治状況について見てみます。

スペインで第三党に躍進した「ポデモス」

二〇一五年一二月二〇日、スペインの総選挙で、現政府与党・ラホイ首相の国民党が第一党を獲得したものの、過半数には達することができませんでした。スペインは国民党と社会労働党の二大政党の国で、これまでどちらかが、単独で政権を獲得してきました。ドイツのような大連立政権ができたことは、これまで一度もありません。

 

今回はポデモス(Podemos、「We can」の意味)という、一一年に成立したばかりの左翼のポピュリスト政党が大きく伸びて、現与党国民党一二三、野党第一党の社会労働党九〇に続く第三党六九の議席を獲得しました。このポデモスの躍進が、連立政権の成立を難しくした要因です。

 

右翼のポピュリスト、市民党(Ciudadanos)も四〇議席獲得しました。国会の議席の過半数は一七六、あらゆる組み合わせが話し合われましたが、選挙から六か月経っても政権が成立せず、規定にしたがって、一六年六月二六日に再選挙ということになりました。

 

二回目の総選挙が行われたのはイギリスの国民投票の三日後で、イギリスのEU離脱が大陸のEU諸国にどのような影響を及ぼすかが注目されました。選挙の結果は、本書『ユーロは絶対に崩壊しない』(幻冬舎ルネッサンス新書)の第四章で取り上げますが、ポデモスの躍進にはブレーキがかかり、与党の票が大きく伸びました。

 

中央政界の舞台に、一気に名乗りを上げたポデモスは、パブロ・イグレシアスというマルクス主義者が率いる若者の党で、ギリシャのシリザとは一味違うポピュリストです。

「左翼+愛国」という新たなスタンス

一五年六月にフランスの週刊誌「LʼOBS」が党首イグレシアスのインタビューを掲載しているので抄訳をご紹介します。ポデモスはギリシャのシリザとは違って、新しい経済モデルを左翼愛国主義の立場から模索しており、ユーロを受け入れることを明言しています。

 

イグレシアスは一九七八年マドリード生まれの三七歳。マルクス主義の社会思想家マヌエル・モネレオを師と仰いでいます。二〇一四年五月、欧州議会議員に初当選します。「LʼOBS」(一五年六月一八日号)に、次のように語っています。

 

「われわれはユーロからの離脱はまったく考えていない。ユーロ創出のやり方やマーストリヒト条約のつくり方には批判的だが、ユーロはもはや否定できない存在になっている。ユーロの管理運営にはもっと民主的な方法が必要であるが、離脱はわれわれの考えにはない。ギリシャのシリザには一部に離脱を主張する者もいるが、われわれは違う。欧州中央銀行の運営には好ましくないところがあるが、われわれはユーロゾーンにいることを受け入れる。

 

逆説的ではあるが、祖国とか国家の観念は、左翼的であることと矛盾するものではない。フランスでは戦闘的なコミュニストが「ラ・マルセイエーズ」を歌う。スペインでは愛国はもっぱら右翼の専有物だったが、ポデモスは新しい左翼的愛国主義を掲げる。それは社会的権利、健康、教育まですべてを包含する思想だ。

 

欧州の既成の社会民主主義は、すでに民衆の支持を失っている。フランスではオランドの社会党が今のようなことをしていると、右翼的なルペンの国民戦線が出てくることになるだろう。総選挙で勝つことができれば、政権を担当する準備はできている。革命的民主主義がわれわれの信念だ。」

 

既成の政党には真っ向から挑戦するのが基本的なスタンスです。ポデモスはギリシャのシリザに較べると理論的な視座が備わっていますが、政権を担うことのできる戦略は明確ではありません。おしなべてポピュリスト政党は、右翼系も左翼系も、若々しく新鮮なのはいいのですが、次の時代を築く戦略的な展望がないのが気になります。

ユーロは絶対に崩壊しない

ユーロは絶対に崩壊しない

伴野 文夫

幻冬舎ルメディアコンサルティング

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