前回は、普仏戦争からドイツの統一までの歴史を、鉄血宰相ビスマルクを中心に概観しました。今回は、ビスマルクが活躍した時代の後半から第二次世界大戦までのドイツ史を見ていきます。

ビスマルクに立ちはだかった「カトリック」と「社会主義」

外交で凄腕を発揮したビスマルクは、内政では二つの問題でつまずき、最後は辞任に追い込まれることになります。まず第一がカトリック勢力との紛争です。この紛争は文化闘争と呼ばれます。カトリック勢力に対しては、さきにも触れたようにオーストリアを排除し、国内ではバイエルンなど南部のカトリック領邦地方にも、プロテスタントのしきたりを強制しました。このためバイエルンを先頭にカトリック勢力が反発し、中央党という政党を結成して政治闘争を展開しました。

 

フランスというカトリック国に勝利を収めたこともあって、ビスマルクははじめ強気でしたが、ローマ教皇にきわめて戦闘的なピウス九世が選ばれ、内外でビスマルクは窮地に立たされました。ビスマルクは教皇庁に譲歩する形でことを収めましたが、帝国のなかでのカトリック系南部の独立性は強まります。

 

第二の問題は社会主義との対立です。一八七〇年代の急速な工業の発展から、国内の労働組合の活動が活発になっていました。七五年には、ドイツ社会主義労働者党(社労党)が結成されました。この党は九〇年に、今日まで続くドイツ社会民主党(SPD)に発展します。社会主義を嫌い、革命を恐れるビスマルクは、社労党弾圧の機会を狙っていましたが、七八年、一人の職人による皇帝の暗殺未遂事件が起こりました。ビスマルクは社労党弾圧法案を国会にかけますが、否決されてしまいます。ところが議会の否決の一週間後に再び、博士号をもつ男による狙撃事件があり、ウィルヘルム一世はこんどは重傷を負いました。

 

ビスマルクは社会主義と闘う必要を訴えて、議会を解散し総選挙を行いました。選挙の結果はビスマルクに有利なものになり、ビスマルクは「社会主義者鎮圧法」を、新しい国会にかけて成立させました。社労党は非合法化されましたが、社労党は地下活動を展開し、かえって多くの支持を獲得することになります。

 

これに対しビスマルクが展開したのは、アメとムチの政策で、弾圧を加える一方、医療保険法、災害保険法、老廃疾者保険法を相次いで導入しました。これは世界ではじめての社会保障制度として、歴史的に評価されており、ビスマルクは社会保障の先駆者として名を残すことになります。現代のドイツでも社会保障政策が、保守政党のイニシャチブで導入されているのは、この伝統を引くものなのでしょう。

欧州の覇権を握るには「小さすぎた」ドイツ

八八年、ビスマルクを信頼し全権を委ねていたウィルヘルム一世皇帝が、九一歳の高齢で亡くなりました。続くフリードリッヒ三世は在位わずか九九日で病死し、同年、二九歳のウィルヘルム二世が新皇帝に即位しました。新皇帝は独自の政策を無理押しするタイプで、ビスマルクとことごとに対立することになります。労働者の福祉政策をめぐって皇帝と決定的に対立したビスマルクは、議会でも孤立して、九〇年三月、辞表を提出し政界を去りました。六二年、プロイセン首相に任命された時から二八年に及んだビスマルク時代は、パリを占領したところで、周辺諸国、とくにカトリック勢力の圧力で立ち止まり、中途半端な形で終わりました。

 

ビスマルク引退後のドイツ帝国はオーストリアとのつながりからバルカン紛争に介入することになります。一九一四年、セルビア人青年がオーストリア皇太子夫妻を暗殺した、いわゆるサラエボ事件をきっかけに、ドイツは第一次世界大戦に巻き込まれました。第一次大戦に敗れたドイツは、普仏戦争の時フランスに課した過酷な賠償の報復を受けることになります。ドイツは足腰立たないほどの打撃を受けました。そしてヒトラーの登場です。憤激したヒトラーは全ヨーロッパを敵にまわして暴れまわりましたが、再びドイツは完膚なきまでに叩きのめされました。ヒトラーの第三帝国は、政権獲得からわずか一二年で完全に滅亡しました。

 

ドイツはtoo big ではあっても、周辺をその八割くらいの大きさの諸国が取り囲んでいるのがヨーロッパの地政です。ドイツはヘゲモニーをとるにはtoo small な、《ぎごちない大きさの国》なのです。

ユーロは絶対に崩壊しない

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伴野 文夫

幻冬舎ルメディアコンサルティング

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