独仏の対立がEU崩壊を招くと言われるが・・・
EUやユーロの危機が来るとかならず、ドイツとフランスの対立が激しくなってユーロは崩壊するだろうとか、欧州統合は消滅するだろうという話が出てきます。本書(『ユーロは絶対に崩壊しない』幻冬舎ルネッサンス新書)の「はじめに」で書いたように一流の学者たちも当たり前のようにこの説を唱えます。独仏対立で崩壊という筋書きは、ユーロ問題の論評で使われるもっとも単純な方程式になっていて、どうやら危機が来て原稿を頼まれると、よく事態を検討することもせずに引き出しから出して使うのでしょう。
独仏の対立でEUが解体したり、ユーロが崩壊するようなことは絶対にありえません。大陸ヨーロッパの現場を知らないアングロサクソン系の学者たちは、なぜかこのことを理解することができません。日本人だけではありません。「Foreign Affairs」掲載の論文や、「FinancialTimes」にはこの種の論評がしばしば登場します。
アングロサクソン系でも、権威ある英誌「The Economist」は、ユーロを簡単に消し去るような単純な論評は掲載していません。私はこの雑誌は大いに信頼していて、もう五〇年来毎週欠かさず目を通しています。ユーロ問題の論評は、多くのものが非常に緻密で先をよく読んでいて有益です。
長年かけて培われてきた独仏の信頼関係
独仏関係は、第一次ギリシャ危機のころ、独仏双方が保守政権で、メルケル首相とサルコジ大統領の呼吸の合った協調路線でした。二人の名前を合わせてメルコジ体制と呼ばれたほどでした。戦後和解した両国関係には、想像以上に強力な粘着力があり、そう簡単には崩れ去るものではありません。海を隔てたイギリスと違って、独仏は長い三〇〇キロを超える国境線を共有しており、戦後七〇年、融合し絡み合って生きてきたのです。両国の国境線の両側にあった軍事施設はすべて撤去され、兵舎も取り壊されました。
第二次危機ではギリシャを追い出すぞと脅かしたドイツを、フランスがまあまあと押しとどめてギリシャをかばいました。こんな場面でさえ、「それ、独仏の対立が始まった」と大騒ぎをした著名学者やジャーナリストがいましたが、その後独仏はこれまでと変わりなく、ウクライナ問題や難民問題で緊密に提携して取り組んでいます。