緊縮政策の受け入れを表明した与党が総選挙で勝利
二〇一五年九月二〇日、ギリシャのやり直し総選挙が行われました。
債権者トロイカ(EU、ECB、IMF)の要求を受け入れたチプラスが、党内の反対派を除外し、党外の賛成派を取り込んで与党を再編成し、あらためて国民に支持を訴える総選挙を実施しました。その結果、多数を獲得し信任されました。トロイカが要求した厳しい構造改革、緊縮政策を、ギリシャ国民も受け入れたことを意味します。
シリザのポピュリズムは右に左に大揺れし、挙句の果てに屈辱的な改革を強いられたのに、国民のチプラスへの信頼は変わりませんでした。チプラスは国民的に愛されている人物のようです。今後トロイカから要請された構造改革とそれにともなう緊縮がどのように実行されていくか、三〇〇〇億ユーロの長期の累積債務をどう縮小するかが注目されるところです。
急激な勢いで進んだ国営企業の民営化
NHK BS1で放映されているフランスのテレビF2が一一月に報じたところによりますと、構造改革の柱である民営化が急速に進められています。ギリシャ最大の貿易港ピレウス港は部分的に中国に売却されました。中国はこの港を欧州への輸出の拠点港にすることを以前から計画していました。
中央空港は、ドイツの企業が買収しました。さらにアラブ諸国のオイルマネーがヨットハーバーや別荘地などの観光施設に投下されています。これまでの買収の総額はすでに五〇〇億ユーロを超えていると報じています。累積債務のうちGDP比六〇%は許容範囲とされているのですから、縮小が求められるのは、最大で一二〇〇億ユーロです。かなりのスピードで長期債務の縮小が進んでいることになります。
重要なのは、トロイカやドイツが強く要求したのが、国営企業の民営化という構造改革であることです。ギリシャはかつては軍事政権、続いて社会主義と、きわめて非効率な国有の経済構造を引きずり、八一年のEC加盟以後も近代的な改革を怠っていました。国営企業には、特権的な公務員が巣食い、信じられない高給や年金を享受していました。これを民営化すれば給与年金制度も合理化されますし、生産効率も上昇します。構造改革の結果としての緊縮政策になるわけです。
日本のメディアは、ギリシャの貧困層が緊縮で苦しんでいるというばかりで、構造改革の成果をまったく書いていません。ジェームズ・リカーズの『ドル消滅』はギリシャが民営化でどのように変わりつつあるかを現場から詳しく伝えています。注3
一六年五月三一日のF2は、ギリシャ民営化の最新情報を伝え、古代遺跡五三八件、エーゲ海の島五九七件、国有用地二万四〇〇〇件、オリンピック競技場などが売りに出されていると報告し、まさかアクロポリスまで売りに出すことはあるまい、とコメントしました。これらの物件はすべて外国人に売られるわけではありません。インタビューを受けるアテネ市民は、国のいいかげんな経営よりも民間に渡したほうがいい、われわれは無駄な浪費をやりすぎたんだとあきらめ顔でした。
ここでいったんギリシャ問題の記述を終わります。
注3 『ドル消滅 国際通貨制度の崩壊は始まっている!』(原題 The Death of Money) ジェームズ・リカーズ著、藤井清美翻訳 朝日新聞出版 二〇一五年