家事を妻任せにしてきた夫、定年後の変化
それから数日間、昭彦さんは一人で昼食を用意することから始めました。最初はカップ麺や総菜ばかりでしたが、明美さんから炊飯器の使い方を教わり、目玉焼きや味噌汁を作るようになりました。
ある日の昼、冷蔵庫を開けながら昭彦さんが尋ねました。
「今日、昼は何にする?」
明美さんは笑って言いました。
「私は仕事。あなたの昼ごはんは、あなたが決めて」
以前なら「冷たい」と感じていた言葉も、そのころには少し違って聞こえるようになっていました。
洗濯機の操作を覚え、ゴミ出しの曜日をスマートフォンに登録。週に2回は掃除機をかけることも、自分の役割にしました。
「会社では自分で予定を立てて仕事をしていたのに、家に帰ると全部誰かがやってくれると思っていたんですよね。退職して初めて、それがおかしかったと気づきました」
明美さんも、夫が家事を始めたことで、パートのあとに慌てて夕食を準備する日が減りました。
一方、60歳以降も働き続ける人は少なくありません。厚生労働省『令和7年高年齢者雇用状況等報告』では、65歳までの高年齢者雇用確保措置を実施済みの企業は99.9%となっており、継続雇用制度などを利用して働き続ける選択肢も広がっています。
昭彦さんも半年ほど休んだあと、知人の会社で週3日働くことを考えています。
ただし、以前のように「仕事をしているから家のことは任せる」という生活には戻らないつもりです。
「今なら妻がいない日でも、少なくとも缶詰だけの夕飯にはならないですよ」
定年によって増えるのは、自由な時間だけではありません。それまで見えにくかった家庭内の役割や生活習慣を見直す機会にもなります。長く仕事を続けてきた人ほど、退職後を迎える前に、家事や食事を含めた日々の暮らしをどう分担するか、夫婦で話しておくことも大切でしょう。
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