「孫が来ない週末」が教えてくれたこと
ある平日の午後、奈緒さんが一人で実家を訪れました。
「最近、電話の声が元気ないけど、大丈夫?」
雅子さんは最初、「何でもない」と答えました。しかし、孫のために買ったままになっている菓子や飲み物を見て、思わず本音をこぼしました。
「あなたたちが来ないと、一週間、誰ともまともに話さないことがあるの」
奈緒さんは驚きました。雅子さんが近所付き合いや趣味を楽しんでいると思い、訪問が減っても心配していなかったのです。
「お母さん、私たちを待って、ほかの予定を断っていたの?」
以前、友人から日帰り旅行や体操教室に誘われたことがありました。しかし雅子さんは、「週末に孫が来るかもしれない」と予定を入れませんでした。平日の習い事も、月謝がもったいないと見送っていました。
「孫が生きがいだと思っていたけれど、自分の生活を孫中心にしてしまっていたのかもしれないね」
奈緒さんは、今後は無理に毎週会おうとせず、月に一度、あらかじめ食事の日を決めようと提案しました。予定が決まっていれば、雅子さんもほかの日を自由に使えます。
雅子さんは地域の広報紙を見て、以前から興味のあった水彩画講座へ申し込みました。最初は一人で参加することに緊張しましたが、同年代の女性と知り合い、講座の後に喫茶店へ行くようになりました。
また、近所の図書館で月2回行われる読み聞かせの手伝いも始めました。
雅子さんは、孫への祝い金や外食代として使っていたお金の一部を、自分の講座代や小旅行の費用に回すことにしました。貯蓄を大きく減らす使い方ではなく、毎月の予算を決めて楽しんでいます。
年金や貯蓄は、高齢期の暮らしを支える大切な備えです。一方で、家族以外にも会いたい人や出かけたい場所があることは、お金だけでは得られない安心につながります。
雅子さんが気づいた「老後に必要なもの」は、複数の楽しみと居場所を持つことだったのです。
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