(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢期にまとまったお金を使うとき、「老後資金を減らしてよいのか」と迷う人は少なくありません。旅行は形として残らない一方、健康や体力がなければ実現できない経験でもあります。ただし、長年の夢をかなえたからこそ、取り戻せない時間や大切な人の不在に気づくこともあります。

夫と行くはずだった世界一周を、一人で申し込んだ理由

美智子さん(仮名・78歳)は、約3ヵ月かけて各国を巡る世界一周クルーズから帰国したばかりです。

 

船室代や寄港地での観光、保険、船内での支出などを合わせた費用は約850万円。高額ではありましたが、美智子さんはこう話します。

 

「あの船旅を選んで、本当によかったと思っています」

 

美智子さんが世界一周を夢見るようになったのは、会社員だった夫・良一さん(仮名)の影響でした。若いころから船が好きだった良一さんは、旅行会社のパンフレットを集め、定年後には夫婦で世界一周をしようと話していました。

 

「退職金が出たら行こう。二人とも元気なうちにな」

 

しかし実際に定年を迎えると、自宅の修繕や子どもの結婚、将来の介護費が気になり、申し込みには踏み切れませんでした。

 

美智子さんも、1人分だけで数百万円かかる旅行に不安を感じていました。

 

「もう少し貯めてからでも遅くないでしょう」

 

そう言うと、良一さんも「80歳までに行ければいい」と笑いました。

 

ところが良一さんは72歳のときに病気が見つかり、約2年の療養を経て亡くなりました。結局、夫婦で世界一周へ出ることはできませんでした。

 

夫の死後、美智子さんは一人で暮らしながら、年金と遺族年金で生活していました。預貯金は約4,600万円あり、自宅のローンもありません。

 

それでも、大きなお金を使うことには抵抗がありました。

 

転機となったのは、遺品を整理していたときです。良一さんの机から、世界一周クルーズの古いパンフレットが出てきました。パンフレットには、夫が赤いペンで気になる寄港地に丸印を付けていました。

 

美智子さんは、その場で涙が止まらなくなったといいます。

 

「『もう少し先でいい』を繰り返した結果、二人で行く機会を失ってしまったんです」

 

その後、美智子さんは子どもたちに相談し、一人参加の世界一周クルーズを申し込みました。

 

船室は、体調が悪くなったときにも落ち着けるよう、窓とバルコニーのある部屋を選択。一人で一室を使う追加料金や、寄港地観光、海外旅行保険などを含めると、総額は約850万円になりました。

 

「高いとは思いました。でも安い部屋にして後悔するより、安心して過ごせることを優先しました」

 

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