「もうあなたを家には入れません」と母が告げた理由
「母さん、そんなに怒ること? 困っている家族を助けるだけじゃないか」
その言葉で、千鶴さんの中に積み重なっていたものが切れました。
「あなたは私に会いに来ていたんじゃない。私のお金を取りに来ていたのね」
俊介さんは「大げさだ」と笑い、帰り支度を始めました。さらに玄関で、こう言い残しました。
「この家だって、最後は俺のものになるんだから」
千鶴さんは、俊介さんの手から合鍵を取り上げました。
「もう帰ってこなくていい。これからは連絡もしないでください。私は、あなたに財産を残すために生きているんじゃありません」
「絶縁するってこと?」
「そう受け取ってもらって構いません」
俊介さんは何も言わず、妻子とともに帰っていきました。
厚生労働省の令和6年度「高齢者虐待防止法に基づく対応状況等に関する調査」では、家族や親族などの養護者による虐待のうち、経済的虐待は16.4%でした。また、虐待者の続柄では息子が38.9%と最も多くなっています。経済的虐待には、高齢者の財産を不当に処分したり、高齢者から不当に財産上の利益を得たりする行為が含まれます。
ただし、親子間で援助を求めたことだけで、直ちに経済的虐待になるわけではありません。本人が自由な意思で贈与したのか、断りにくい状況や威圧があったのかなど、経緯を含めて判断されます。
千鶴さんは後日、娘のように親しくしている姪に事情を話しました。銀行口座の管理方法を見直し、自宅の鍵も交換しました。遺言についても専門家へ相談することにしています。
俊介さんとは、半年以上連絡を取っていません。孫に会えない寂しさはあります。それでも、援助を断るたびに責められる生活には戻りたくないと話します。
「息子を嫌いになったわけではありません。でも自分の暮らしを守るには、親子でも距離が必要だと思ったんです」
絶縁という言葉は重く、簡単に選べるものではありません。しかし、「家族だから断れない」という関係が続けば、財産だけでなく尊厳まで損なわれることがあります。援助する金額や返済の有無を明確にし、納得できない要求には断る。それも親子関係を壊さないために必要な境界線です。
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