「資産は1億円。でも、助けを呼べる相手はいなかった」
病院で検査を受けた結果、健一さんはそのまま入院することになりました。
医師から緊急連絡先を尋ねられ、健一さんは言葉に詰まりました。姉の電話番号を書いたものの、住所も勤務先も正確には覚えていませんでした。
入院に必要な物を取りに戻ってくれる人もいません。会社への連絡は病室から自分で行い、着替えや日用品は院内で購入しました。
隣のベッドでは、患者の妻が医師の説明を聞き、必要な荷物を届けていました。その様子を見て、健一さんは初めて自分の暮らしに欠けていたものを意識したといいます。
「資産は1億円になりました。でも、本当に困った夜、助けを呼べる相手は誰もいませんでした。何のために安心を買おうとしていたのかわからなくなりました」
内閣府『令和6年 人々のつながりに関する基礎調査』では、「頼れる人も相談相手もいない」と回答した人は、調査回答者の5.7%でした。日常生活に問題がなくても、病気や事故をきっかけに孤立が表面化することがあります。
総務省消防庁の「救急安心センター事業(#7119)」では、急な病気やけがの際、救急車を呼ぶべきか、すぐに医療機関を受診すべきか迷った場合に、医師や看護師、救急救命士などから電話で助言を受けられます。ただし、実施地域は限られるため、居住地域の利用状況を平時に確認しておくことが必要です。緊急性が高い場合は、迷わず119番へ通報することが重要です。
退院後、健一さんは姉に連絡しました。
「夜中に何かあったら、電話してもいいかな」
姉は驚きながらも、「当たり前でしょう。私も連絡していなくてごめん」と答えました。
健一さんは会社でも、信頼できる同僚と緊急時の連絡方法を共有しました。学生時代の友人にも久しぶりに連絡し、月に一度は食事をするようになりました。
資産形成をやめたわけではありません。ただ、休日をすべて仕事や投資の確認に使う生活は見直しました。
お金は、治療費や生活費に備えるための大切な手段です。しかし、体を動かせないときに連絡をくれる人や、異変に気づいてくれる人まで金融資産で代替できるわけではありません。
健一さんが後悔したのは、人に頼らずに生きることを「自立」だと思い込んでいたことでした。資産残高を確認するのと同じように、緊急時に連絡できる相手や相談先を確かめておくことも、将来への備えといえるでしょう。
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