帰省するたびに「少しだけ貸して」と頼む長男
澄子さん(仮名・79歳)は、夫を亡くしてから戸建てで一人暮らしをしています。年金は月13万円ほど。住宅ローンはありませんが、固定資産税や家の修繕費を考えると、余裕のある生活ではありません。
46歳の長男・直人さん(仮名)は、妻と高校生の息子と県外で暮らしていました。以前は盆と正月に家族そろって帰省し、澄子さんも孫の好物を用意して待っていました。
変化が表れたのは、直人さんが勤務先を退職して小さな事業を始めてからです。
ある年の夏、直人さんは一人で帰省すると、澄子さんに切り出しました。
「取引先からの入金が遅れているんだ。20万円だけ貸してくれない?」
「そんなに持っていないよ」
「来月には必ず返すから」
困っている息子を見捨てられず、澄子さんは定期預金を一部解約しました。しかし、約束の翌月になっても返金はありませんでした。
その年の暮れ、直人さんは再び帰ってきました。
「今度こそ立て直せそうなんだ。あと30万円あれば仕事が回る」
澄子さんが前回のお金について尋ねると、「事業が軌道に乗ればまとめて返す」と答えました。妻には借金のことを話していないようでした。
その後も、直人さんは帰省のたびに「車検代が足りない」「孫の学費が必要だ」と金銭を求めました。澄子さんが渡した額は、3年間で合計120万円を超えました。
「息子が顔を見せに来るのはうれしかったんです。でも玄関が開くと、今度はいくら必要なのだろうと考えるようになりました」
やがて直人さんは、電話でも澄子さんの預金額を尋ねるようになりました。
「父さんの退職金、まだ残っているだろう」
「老後のためのお金だから、もう渡せないよ」
「一人なのに、そんなに持っていてどうするんだよ」
その一言が、澄子さんの胸に残りました。それでも、親子関係が壊れることを恐れ、強く拒むことはできませんでした。
厚生労働省の令和6年度『高齢者虐待防止法に基づく対応状況等に関する調査』では、家族や親族などの養護者による高齢者虐待について、市町村への相談・通報が4万1,814件、虐待と判断されたものが1万7,133件ありました。虐待の種別では経済的虐待が16.4%を占め、主な虐待者の続柄は息子が38.9%と最も多くなっています。
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