(※写真はイメージです/PIXTA)

郊外のニュータウンでは、住民の高齢化や商店の撤退、路線バスの減便が進み、暮らしに不便を感じる地域もあります。それでも、長年築いてきた人間関係や住み慣れた環境を理由に、便利な地域へ移るのではなく、今の家で暮らし続けたいと考える人もいます。

不便さを受け入れても、ここに残りたい理由

捻挫をきっかけに、長男は改めて住み替えを勧めました。

 

「今ならまだ二人で引っ越せるよ。もっと年を取ってからでは大変だ」

 

夫婦も駅前の中古マンションを見学しました。スーパーや病院が近く、エレベーターもあります。確かに今の家より便利でした。

 

しかし、帰宅した久美子さんは言いました。

 

「便利なのはわかるけど、あそこで毎日何をして過ごすのかしら」

 

今の街には、道で会えば声をかける人がいます。修一さんは月に一度、近所の公園清掃に参加し、久美子さんは住民同士で花壇の手入れをしています。

 

内閣府『令和7年版高齢社会白書』では、65歳以上の人の84.6%が近所の人と「会えば挨拶をする」、61.3%が「外でちょっと立ち話をする」と回答しています。高齢期の暮らしでは、住宅の便利さだけでなく、地域で築いたつながりも生活を支える要素になります。

 

また、駅前マンションを購入すれば、管理費や修繕積立金が毎月かかります。自宅を売却しても希望する金額で売れるとは限らず、引っ越しや家具の買い替えにも費用が必要です。

 

内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、65歳以上の人の住居形態は「持家(一戸建て)」が79.8%を占めています。高齢期にも戸建てに住み続ける人は多く、住み替えだけでなく、リフォームや住環境の見直しといった選択肢もあります。

 

夫婦は、今の家に残るための方法を考えました。

 

買い物は宅配サービスと移動販売を利用し、通院には地域の予約制乗合交通を使います。車については毎年運転能力を見直し、無理だと感じた時点で手放すことにしました。

 

室内には手すりを設置し、寝室を1階へ移しました。長男とも連絡する曜日を決め、近所の住民には緊急時の連絡先を伝えています。

 

「買い物は不便です。でも、後悔はありません」

 

久美子さんはそう話します。

 

「便利さだけなら、ほかにいい場所はあります。でもここには、私たちが暮らしてきた時間と、困ったときに声をかけられる人がいるんです」

 

住み慣れた地域で暮らし続けるには、買い物や通院、移動手段など、先を見据えた備えが欠かせません。不便だからと住み替えるのではなく、宅配や地域交通、見守り、住宅改修などを組み合わせて、暮らしやすさを補う方法もあります。

 

夫婦が選んだのは、長年暮らしてきた家をこれからも暮らせる場所へ整えながら、住み続けるという決断だったのです。

 

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