人格ではなく「事実と業務」を伝える指導へ
状況が変わったのは、別の部下から相談を受けたことがきっかけでした。
「隆夫さんの案件を、私たちが毎回確認するのは厳しいです。ミスを指摘できない空気になっています」
達也さんは、自分の遠慮がチーム全体の負担になっていることに気づきました。そこで人事担当者に相談し、隆夫さんへの指導方法を見直すことにしました。
厚生労働省の指針では、職場のパワーハラスメントは、優越的な関係を背景とした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超え、就業環境を害するものとされています。一方、客観的に見て必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワーハラスメントには該当しません。
人事担当者から助言されたのは、発生した事実と改善すべき行動を具体的に伝えることでした。
達也さんは再び隆夫さんと面談しました。今回は人事担当者にも同席してもらい、日時、ミスの内容、業務への影響を記録した資料を用意しました。
「能力の話をしているのではありません。納期の誤登録が3回あり、そのうち1回は取引先への納品が遅れました。今後は送信前に、この確認表を使ってください」
隆夫さんは黙って資料を見ていました。
「私だけ厳しく見られている気がする」
「確認表は同じ業務を担当する全員に導入します。ただし、わからない操作をそのままにせず、研修を受けてほしいと考えています」
達也さんは、システム操作の再研修を提案し、当面は週に一度、進捗を確認することにしました。隆夫さんもすぐに納得したわけではありませんが、指導内容が記録され、基準が全員に共通していることで、少しずつ受け入れるようになりました。
高年齢者雇用安定法では、企業に65歳までの雇用確保措置が義務づけられています。厚生労働省『令和7年 高年齢者雇用状況等報告』では、対象企業の99.9%が措置を実施済みです。年齢や役職の異なる社員が同じ職場で働く機会は、今後も増えていくと考えられます。
年上の部下への敬意は必要です。しかし遠慮して必要な指導を避けることは、本人のためにも、周囲のためにもなりません。
相手の人格を否定せず、業務上必要なことを具体的に伝える。そうした積み重ねが、年齢に関係なく働きやすい職場づくりにつながっていくのでしょう。
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