【社労士が解説】人間が不正を働くようになる「3要素」
中小企業において、経営者が創業時からの仲間を信頼すること自体は素晴らしいことです。しかし、「信頼」と「放任(ガバナンスの欠如)」はまったくの別物です。
米国の犯罪学者ドナルド・R・クレッシー「不正のトライアングル理論」によれば、人間は以下の3つの要素が揃ったときに不正を働くとされています。
1.動機・プレッシャー:給与への不満、個人的な金銭トラブルなど
2.正当化:「自分はこれだけ会社に貢献しているのだから、これくらいもらって当然だ」「後で返すつもりだ」という自己弁護
3.機会:「誰もチェックしていない」「自分の一存で決裁できる」という環境
今回のケースでは、土田部長のなかに「サービス残業や休日出勤への不満(動機・正当化)」があり、さらに川崎社長がノーチェックだったこと(機会)が、不正が5年間も続いた原因と考えられます。
役員や幹部だからといって、彼らは決して「聖人君子」ではありません。ルールなき信頼は、結果として会社を支えてきた大切な社員を、横領や詐欺を行う犯罪者に仕立て上げてしまうリスクを孕んでいるのです。
即解雇はNG…不正発覚時に会社が踏むべき「4つのステップ」
もし、社内でこのような経費の不正請求が発覚した場合、怒りに任せて「明日から来なくていい、クビだ!」と即座に懲戒解雇処分にするのは絶対に避けてください。
どれだけ相手が悪質であっても、法的な手続きを怠ると「不当解雇」として労働裁判で会社側が敗訴し、多額のバックペイ(解雇期間中の未払い賃金)の支払いを命じられるリスクがあります。会社が踏むべき適正な手順は、以下の4ステップです。
1.客観的な「証拠」を集める
本人の勘違いや言い逃れ、証拠隠滅を封じるために、まずは外堀を固めます。下記のような証拠を集めましょう。
・過去数年分の経費申請書、領収書のコピー
・出張先とされる場所の利用実績の有無(ホテルへの確認、取引先へのヒアリング)
・社内PCのログ、メール履歴、社用車のETC履歴やGPSデータの確認
2.本人に「説明の機会」を与える
証拠を揃えたうえで、本人に事実関係を確認するヒアリングを行います。この際、必ず「本人の言い分を聞く(弁明の機会を与える)」プロセスを設け、議事録に残してください。これを怠ると、のちのち「弁明の機会も与えられず一方的に処分された」と不法行為を主張される材料になってしまいます。
3.就業規則に基づく「適正な懲戒処分」の決定
次に、会社の就業規則の「懲戒規定」と照らし合わせます。今回のケースでは金額が850万円と巨額であるほか、期間も5年間と長期にわたり悪質性が高いため「懲戒解雇」の妥当性は十分に高いといえます。
とはいえ、現場の職人が動揺して社内が割れるリスクを考慮し、まずは「自宅待機命令」を出して土田部長を現場から引き離し、冷静な判断を下す時間を確保するのが先決です。
4.不正金の「返還請求(損害賠償請求)」
不正に受給した850万円は、会社に対する不法行為(民法第709条)または不当利得(民法第703条)にあたります。全額の返還を求める書面(合意書)を交わし、一括返済が難しい場合は現実的な分割計画を締結します。
その際、「月々10万円ずつの返済とし、支払いが滞った場合は期限の利益を喪失し、年3%の法定利率による遅延損害金を付加する」といった法的に有効な条項を必ず盛り込みましょう。
