記録を知らなかった代償と、今からできる見直し
帰宅した修一さんは、あらためて家計を書き出しました。家賃、食費、光熱費、通信費、医療費。これまで想定していた年金額なら何とかなると思っていましたが、実際の受給額では毎月の赤字が避けられません。
「もう少し早く確認していれば……」
何度もそう思いました。60歳の時点で記録を確認していれば、働き方を変えたり、支出を見直したりする時間がありました。場合によっては、国民年金の任意加入や未納期間への対応を検討できた可能性もあります。
ただし、すべてを過去に戻せるわけではありません。国民年金保険料の追納には期限があり、未納期間をあとから何でも埋められるわけではないためです。修一さんは、年金事務所で今後の選択肢を確認しました。
担当者からは、65歳以降も厚生年金に加入して働けば、その後の年金額に反映される場合があること、支出が厳しければ住居費の低い地域への転居や、生活福祉資金、生活困窮者自立相談支援制度などの相談先もあることを説明されました。
「まだ働けるうちは、少しでも収入を作るしかないですね」
完全な引退を考えていましたが、週3日の勤務を探すことにしました。あわせて通信費や保険料を見直し、車の所有も手放す方向で考えました。
若い頃の未納、社会保険に入っていなかった勤務先、低い給与水準での厚生年金加入期間。それらが長い時間をかけて、65歳の受給額として表れたのです。
公的年金は、老後の暮らしを支える重要な制度です。しかし平均額だけを見て安心してしまうと、自分の実際の受給額とのずれに気づけないことがあります。ねんきん定期便やねんきんネット、年金事務所で早めに確認しておくことは、老後設計の出発点になります。
修一さんは今も、不安が消えたわけではありません。それでも、現実の数字を知ったことで、ようやく生活を立て直す準備を始めることができました。老後設計に必要なのは、漠然とした期待ではなく、自分の記録に基づいた具体的な見通しなのです。
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】

