家族を助けたい気持ちと、老後を守りたい気持ち
同居開始から半年が過ぎても、長女一家が出ていく見通しは立ちませんでした。長女の夫は仕事を始めましたが、収入は以前より下がり、新しい賃貸を借りる初期費用もなかなか貯まりません。
一方で、誠司さん夫婦の負担は増えていました。孫の習い事の送迎、夕食の準備、学校からの急な連絡。長女夫婦が仕事で遅い日は、誠司さんたちが自然と孫の世話をすることになります。
「今日はお願いしてもいい?」
長女にそう言われるたび、誠司さんはうなずきました。しかし内心では、「いつまで続くのか」という思いが膨らんでいました。
総務省『家計調査報告 2025年(令和7年)平均』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、実収入は月約25.4万円、可処分所得は月約22.2万円、消費支出は月約26.4万円となっています。平均では毎月不足が生じる家計であり、誠司さん夫婦の年金月26万円も、子世帯4人分の生活を支え続けられるほど余裕のある額ではありません。
転機になったのは、和子さんが体調を崩したことでした。疲れが抜けず、病院で「無理をしないように」と言われたのです。帰宅後、和子さんは誠司さんに言いました。
「娘たちを追い出したいわけじゃない。でも、このままだと私たちの生活がもたない」
その言葉で、誠司さんはようやく長女夫婦と向き合う決心をしました。
週末の夜、誠司さんは長女夫婦に話しました。
「困っているときに助けたい気持ちはある。でも、いつまで、どれくらい負担するのかを決めないままでは、こちらも苦しくなる」
長女は目を伏せました。
「甘えていたと思う。お父さんたちが何も言わないから、大丈夫なんだと思っていた」
話し合いの結果、長女一家は半年後を目標に再び賃貸へ移ることにしました。それまでの生活費は毎月一定額を入れ、孫の送迎や夕食づくりも事前に頼む日を決める。初期費用については、誠司さん夫婦が貸す形にして、返済の予定も書面で残すことにしました。
誠司さんは、娘一家が出ていく日を寂しく感じるだろうと思いました。それでも、夫婦の老後を守ることもまた、家族にとって必要な選択でした。助け合いを長く続けるためには、気持ちだけでなく、期限や費用、役割を言葉にして決めることが大切なのかもしれません。
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