(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢の親を心配し、「一緒に暮らせば安心」と同居を選ぶ人は少なくありません。互いに支え合える安心感がある一方で、生活を共にするなかで家事や見守り、通院の付き添いなどの負担が少しずつ一方に偏ることもあります。親を思う気持ちが強いほど、本音を言えずに悩みを抱え込んでしまうケースもあるのです。

「私が迷惑ってこと?」…離れて暮らす決断

限界を感じたのは、美紀さんが体調を崩したときでした。仕事中にめまいが出て早退し、病院で「疲労がたまっていますね」と言われました。その日の夜も、節子さんはいつものように声をかけてきました。

 

「明日、買い物に付き合ってくれる?」

 

美紀さんはすぐに返事ができませんでした。母に悪気がないことはわかっています。それでも、これ以上この暮らしを続ければ、自分の心身がもたないと感じました。

 

数日後、美紀さんは節子さんに切り出しました。

 

「お母さん、私、少し近くで一人暮らしをしようと思う」

 

節子さんは驚いた顔をしました。

 

「私が迷惑ってこと?」

 

「そうじゃないよ。お母さんのことは心配だし、これからも手伝う。でも、一緒に暮らしていると、私も休めなくなってしまうの」

 

美紀さんは、実家から電車で数駅の場所に小さな賃貸を借りることを考えていました。完全に距離を置くのではなく、週に数回は顔を出し、通院や手続きは事前に予定を決めて手伝う。急な困りごとは、近所の親族や地域包括支援センターにも相談することにしました。

 

地域包括支援センターは、高齢者の暮らしを支える総合相談窓口で、介護保険サービスの利用前でも、生活上の不安や見守りについて相談できます。家族だけで抱え込まず、外部の支援につなぐことは、親子双方の生活を守るためにも重要です。

 

内閣府『令和7年版高齢社会白書』では、65歳以上人口に占める一人暮らしの割合は、令和7年時点で男性18.3%、女性25.4%と推計されています。高齢の親が一人で暮らすことは珍しいことではありません。ただし孤立を防ぐには、家族の関わり方や地域の見守りをあらかじめ整えておく必要があります。

 

引っ越しの日、節子さんは小さな声で言いました。

 

「寂しくなるね」

 

美紀さんはうなずきました。

 

「でも、週末には来るよ。病院も一緒に行く。ただ、お母さんもできることは自分でやっていこう」

 

家を出てから、美紀さんは母への連絡を減らしたわけではありません。むしろ訪問日には、以前より穏やかに話せるようになりました。節子さんも少しずつ、自分でできることを取り戻していきました。

 

親と離れて暮らす決断は、冷たい選択とは限りません。近すぎる距離で疲弊してしまえば、支える気持ちまで失われてしまいます。長く関わり続けるために、無理のない距離を選ぶことも、家族を守る一つの方法なのかもしれません。

 

 

 

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