「一緒に暮らせば安心」同居生活を続けていたが…
美紀さん(仮名・53歳)は、76歳の母・節子さん(仮名)と二人で暮らしていました。父が亡くなったあと、「母を一人にするのは心配だから」と実家に戻ったのがきっかけです。
節子さんの年金は月13万円ほど。持ち家のため家賃はかかりませんが、固定資産税や光熱費、食費、通院費を考えると、余裕があるとは言えません。美紀さんは契約社員として働き、自分の収入から食費や日用品代の一部を出していました。
最初の頃、節子さんは「一人じゃないだけで安心する」と何度も言っていました。美紀さんも、母の表情が明るくなることにほっとしていました。
しかし同居が長くなるにつれ、家の中の役割は少しずつ美紀さんに偏っていきました。買い物、夕食づくり、薬の確認、病院の予約、自治会の連絡。節子さんは大きな介助が必要な状態ではありませんでしたが、「ちょっとお願い」が毎日のように積み重なりました。
「明日、病院まで一緒に来てくれる?」
「この書類、よくわからないから見て」
そう言われるたび、美紀さんは仕事の予定を調整しました。断ると、節子さんは寂しそうな顔をします。
「お母さん、まだ一人でできることもあるでしょ」
思わずそう言った日、節子さんは黙り込みました。その沈黙に、美紀さんは罪悪感を覚えました。
厚生労働省『2022(令和4)年 国民生活基礎調査』によると、主な介護者が要介護者等と同居している割合は45.9%。節子さんは要介護認定を受けていませんでしたが、家族が日常的な支えを担う状況は、介護の前段階から始まることがあります。
仕事から帰ると、節子さんは今日あったことを次々に話しました。近所の人の言葉、体調の不安、テレビで見た健康情報。美紀さんは疲れていても、聞き役にならざるを得ませんでした。
「私の生活は、いつから全部お母さん中心になったんだろう」
家を出たい気持ちと、母を置いていく後ろめたさの間で揺れていたといいます。
