(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢になってから、子どもとの距離に悩む人は少なくありません。頼りたい気持ちがあっても、子どもには子どもの生活があります。一方で、連絡しても返事がない、会うたびに傷つく言葉をかけられる関係なら、親の心がすり減ってしまうこともあります。老後を穏やかに過ごすため、あえて距離を置く選択をする人もいます。

傷つかないために選んだ暮らし

「電話帳から息子の番号を消しました」

 

勝男さんは、地域包括支援センターの相談員にそう話しました。息子と縁を切りたいわけではありません。何かあれば番号を調べる方法もあります。ただ、寂しさや不安のたびに電話をかけ、返事に傷つく自分をやめたかったのです。

 

相談員は、勝男さんの話を否定せずに聞きました。そのうえで緊急時の連絡先、見守りサービス、配食サービス、通院支援などを一緒に整理しました。家族に頼れない高齢者が、地域の支援につながることは決して珍しいことではありません。

 

内閣府『令和7年版高齢社会白書』では、65歳以上人口に占める一人暮らしの割合は男性18.3%、女性25.4%と推計されています。一人暮らしの高齢者が増えるなか、家族だけを前提にした支え方には限界があります。地域包括支援センターは、高齢者の生活や介護、権利擁護などについて相談できる身近な窓口です。

 

勝男さんはその後、週に数回の見守り電話を利用するようになりました。団地の自治会にも顔を出し、ごみ出しの日に近所の人と挨拶を交わすようになります。通院はタクシー券や自治体の移動支援について相談し、急な体調不良のときにどこへ連絡するかも決めました。

 

直人さんとは、完全に連絡を断ったわけではありません。年末には短いメッセージが届き、勝男さんも「元気でやっています」とだけ返しました。以前のように期待しすぎないことで、かえって心が乱れにくくなったといいます。

 

「頼れる人がいないと思うと怖かった。でも、息子だけが頼りだと思うほうが、もっと苦しかったんです」

 

親子であっても、距離を置いたほうが互いに穏やかでいられることがあります。老後に大切なのは、誰か一人にすべてを託すことではなく、複数の支え先を持つことです。電話帳から息子の番号を消したのは、傷つき続ける暮らしから、自分を守るための静かな一歩だったのです。

 

 

 

 

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