富裕層でも住み替えは簡単ではない
資産があるなら、別の施設に移ればよい。そう考える人もいるかもしれません。たしかに山崎夫妻には、まだ十分な金融資産が残っていました。6年あまりの施設費、医療費、生活費を差し引いても、資産は7,000万円以上あります。
しかし、問題はお金ではありません。70代後半の夫婦が、もう一度住まいを探し、見学し、審査を受け、契約し、引っ越す。その負担は決して小さくありません。身体状況や認知機能が変化していれば、契約行為ができず、希望する施設に入れないこともあります。夫婦での入居を希望しても、空きがあるとは限りません。
さらに、同じ水準の施設に入り直す場合、新たに数千万円単位の入居一時金が必要になることもあります。月額費用も、以前より上がっているかもしれません。つまり、富裕層であっても「お金を支払って、選び直せば済む」とは限らないのです。
老人ホーム選びで確認したいこと
有料老人ホームを選ぶ際には、設備やサービス内容だけでなく、契約と経営の視点が欠かせません。
まず確認したいのは、入居一時金の償却方法です。初期償却はあるのか。償却期間は何年か。途中退去や死亡退去の場合、いくら返還されるのか。パンフレット上の金額だけでなく、返還金の計算式まで確認しておきましょう。
償却期間の設定は施設側が統計的・経営的に見込んだ平均居住年数をベースにしているケースが多く、ご自身が希望されている期間とは別の論理で設定されています。つまり、契約上の想定居住期間とご自身が希望する居住期間とは構造上のズレがあるのが一般的です。
また、運営会社の経営状況の確認も重要ポイントです。入居率や職員の定着状況、行政処分の有無、系列施設の運営状況、財務情報、経営理念など、確認できる範囲で情報を集めましょう。見学時の印象がよくても、経営を継続していける組織であるとは限りません。
一見すると豪華な建物や美しい館内風景であっても、終の棲家として成り立つには、施設側にさまざまな不確実性を乗り越えていく経営体制が必要です。もちろん、利用者として知ることができる範囲は限られますが、事前に情報収集をしておき、万が一の対策を具体化できているかによって、晩年の暮らし向きは大きく変わる可能性があります。
万が一があったとき、自分たちに次の選択肢はどれくらい残せそうなのか。長きにわたって自身が大切にしたいものを守ることはできそうか。契約前には、専門家の力も借りながら、契約内容とともに、自身のライフデザインと照らし合わせながら、じっくりと確認する時間を取ることをお勧めします。
内田 英子
FPオフィスツクル 代表
ファイナンシャルプランナー
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