払えるのに満たされない…入居後に見えた「暮らしの相性」
誤算がはっきりしたのは、和枝さんが「家に帰りたい」と漏らしたときでした。施設に不満があるわけではありません。職員も親切で、部屋も清潔です。それでも、長年暮らした自宅の台所、近所の商店、気軽に立ち寄れる友人宅が恋しくなったのです。
敏夫さんもまた、入居前には想像していなかった寂しさを感じていました。食事の支度や掃除から解放された一方で、日々の生活から自分の役割が減ってしまったように思えたのです。
夫婦は子どもたちとも話し合い、すぐに退去するのではなく、施設での暮らし方を見直すことにしました。外出の頻度を増やし、以前の友人とも会う機会を作る。自室に自宅で使っていた家具や写真を置く。施設内の活動も、無理に参加するのではなく、自分たちに合うものだけを選ぶようにしました。
有料老人ホームやシニア向け住宅は、老後の有力な選択肢です。しかし、入居を決める前には費用だけでなく、食事、外出、医療・介護体制、家族や友人との距離、本人の性格に合うかまで確認する必要があります。可能であれば体験入居を利用し、実際の一日を試してみることも大切です。
敏夫さん夫婦は今も、その施設で暮らしています。ただし、入居前のように「ここで暮らせばすべて安心」とは考えていません。老後の住まい選びで大切なのは、お金で買える安心と、お金だけでは満たせない暮らしの感覚を分けて考えることなのかもしれません。
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