父が遺した現金に込められた思い
直人さんは最初、胸が詰まる思いで現金を見つめていました。しかしすぐに、相続手続きの現実にも向き合うことになります。自宅に保管されていた現金も、相続財産に含まれます。通帳に記録がないからといって、自由に扱ってよいものではありません。
家族が存在を知らなければ、申告漏れや相続人間のトラブルにつながるおそれがあります。
幸い、昭夫さんの相続人は直人さん一人でした。それでも、見つかった現金の金額や場所を記録し、通帳や保険、家の名義とあわせて整理する必要がありました。直人さんは、父が残した封筒を一つずつ確認しながら、もっと早くお金の話をしておけばよかったと感じたといいます。
直人さんは、父のメモを財布に入れました。現金は相続財産として整理したうえで、父の墓や実家の片づけ費用に充てることにしました。自分のために使うことも考えましたが、まずは父が安心して眠れるようにしたいと思ったのです。
タンス預金は、本人にとっては身近で安心できるお金かもしれません。しかし、保管場所や金額を家族が知らないままでは、死後に混乱を招くことがあります。現金を手元に置く場合でも、最低限、信頼できる家族に場所を伝えておくことは大切です。
それでも直人さんが見つけた現金は、単なる「隠し財産」ではありませんでした。限られた年金の中から少しずつ残し、いつか息子の力になれれば――。そんな父なりの不器用な思いもまた、封筒の中には静かに残されていたのです。
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