「今もらったほうが得なんだ」息子の熱弁も…父の失望
今500万円を受け取り、仮に年6%で運用できれば20年後には約1,600万円、30年後には約2,900万円になる。同じ500万円でも、今もらうのと何十年後にもらうのとでは価値が違う――そう熱弁する啓太さん。しかし、父の表情は曇ったままです。
投資の威力を知っている啓太さんにとって、自分の意見こそ正論でした。現金を父の口座で眠らせていても、意味がないと思ったのです。しかし、父は静かに言いました。
「お前、卑しいことを言うようになったな。人生は金がすべてじゃないんだぞ」
失望した父の表情に、啓太さんの心は抉られました。
「なんで、あんなことを言ってしまったんだろう……」
投資熱の過熱が生んだ「もっと早く、もっと多く」
新NISAの開始以降、投資熱はかつてないほど高まっています。「現金を寝かせるのはもったいない」「少しでも早く投資した人が勝つ」。そんな風潮のなか、生活を切り詰めてまで投資資金を捻出する“NISA貧乏”という言葉まで生まれています。
啓太さんの考え方は、投資の理屈だけを見れば間違いではありません。原資を増やして複利の力を活かすのは、資産形成の王道です。また、生前贈与そのものも悪いわけではありません。毎年110万円以内の暦年贈与や相続時精算課税制度などを活用して計画的に資産移転を行う方法もあります。
しかし、啓太さんの両親は、コツコツ貯金をする昔ながらの堅実派で、投資にもなじみがありません。2人にとっては老後を安心して過ごすための大切なお金であり、長年働いて築いてきた人生そのもの。そして相続とは「死んだ後の話」。それを早々と“自分のもの”として計算されていたことが、何より寂しかったのです。
投資の世界には「機会損失」という言葉があります。しかし人生には、お金では測れない損失もあります。親からの失望は最たるものでしょう。また、投資とは人生を豊かにするための手段であり、ゴールではありません。いくら増えるかばかりに目を向け、本当に大切なものを失わないよう心掛けたいものです。
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