「気づけば顔ぶれが減っていた」…団地で続く別れ
佐和子さん(仮名・78歳)は、築50年近い団地で一人暮らしをしています。夫は6年前に亡くなり、年金は月15万円ほど。贅沢はできませんが、家賃負担は重くなく、近くにスーパーや診療所もあるため、暮らしに大きな不便は感じていませんでした。
この団地には、子育て中の30代から住み続けています。かつては廊下で子どもたちの声が響き、夕方になると近所の母親同士で立ち話をするのが日常でした。子どもが独立してからも、同じ棟に住む友人たちと月に一度お茶会を開き、病院の評判や孫の話、季節の食材の話をして過ごしていました。
「年を取っても、ここなら寂しくないね」
そう話していた頃もあります。
ところが、ここ数年で状況は変わりました。向かいの部屋に住んでいた友人は、転倒をきっかけに娘夫婦の家へ移りました。下の階の女性は施設へ入居し、別の棟の友人は入院後、そのまま戻ってきませんでした。
自治会の名簿を更新するたび、佐和子さんは空欄が増えていくのを見つめるようになりました。
「団地から友人が消えていくみたいでね」
そう話す佐和子さんの声には、寂しさがにじみます。
ある日、いつものお茶会に集まったのは3人だけでした。以前は8人ほどで食卓を囲み、持ち寄ったお菓子を広げていたのに、今は湯のみも余るようになりました。
「来月は、どうする?」
一人がそう言うと、別の友人が小さく笑いました。
「集まれるうちは集まろうよ」
その言葉に、佐和子さんは胸が詰まりました。いつまで集まれるのか、誰も口にはしません。それでも全員が同じことを考えているようでした。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、65歳以上の一人暮らしの人は増加しており、令和7年時点で65歳以上人口に占める一人暮らしの割合は男性18.3%、女性25.4%と推計されています。佐和子さんのように、配偶者を亡くしたあとも住み慣れた地域で暮らし続ける高齢者は少なくありません。
ただ、一人暮らしは住まいがあるだけで成り立つものではありません。日々の声かけや、ちょっとした異変に気づいてくれる人の存在が、安心につながることもあります。
佐和子さんは最近、玄関の外に出る回数が減ったことに気づきました。以前なら郵便受けを見に行くだけで誰かに会えましたが、今は廊下を歩いても物音が少なく、ドアの向こうに人の気配を感じない日が増えています。
